うつくしく着飾った紫の姫君
祭の当日、ひとりで二条院にいた光君は、祭を見に出かけることにした。紫(むらさき)の姫君のいる西の対(たい)に向かい、惟光(これみつ)に車の用意を命じる。
「ちいさな女房さんたちは見物に行きますか」
光君は姫君に仕えている女童(めのわらわ)たちに言い、祭に行くためにうつくしく着飾った紫の姫君をほほえんで眺める。
「さあ、いらっしゃい。いっしょに見物しよう」いつもよりつややかに見える髪を撫(な)で、「ずいぶん切っていないけれど、今日は髪を切るのには吉日だね」と、暦(こよみ)の博士(はかせ)を呼び、髪を切る時刻を調べさせる。「女房たちは先に見物にいってらっしゃい」とかわいらしい様子の女童たちを眺める。愛らしく切り揃えてある髪が、浮紋(うきもん)の表袴(うえのはかま)にかかって、くっきりとはなやかに見える。「あなたの御髪(みぐし)は私が切ってあげましょう」と髪に触れ、「ずいぶんとゆたかな御髪だね。これからどのくらい長くなるんだろう」と、切りづらさに難儀しながら言う。「どんなに髪の長い人でも、額髪は少し短くしているようだね。あなたのようにまったく後れ毛がないのも、風情(ふぜい)があるとは言えないな」と、切り終わり、髪が千尋(ちひろ)まで伸びるようにとの意味をこめ「千尋」と祝い言を口にする。乳母(めのと)の少納言は、なんとありがたいことだろうとしみじみと感じ入って眺めている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら