この説明をするとき、私はいつも『マッドメン』というドラマのあるシーンを思い出す。
広告会社のカリスマ役員、ドン・ドレイパーは、顧客の新製品のキャッチフレーズで苦労している新進気鋭のコピーライター、ペギーにアドバイスを授ける。ドンは創造的なインキュベーションについての考え方を、短く完璧に言い表す。
「深く考えろ。そして忘れろ。アイデアが頭の中に飛び出してくる」
私もそうやってアイデアが頭に湧いてきた経験がある。2013年当時、私は大学院生で、博士論文の研究テーマ決めに悩んでいた。
何時間も文献を眺め、創造的なアイデアが出てくるように全力を振り絞ったが、ご想像の通り、うまくいかなかった。惨めで「ダメ」な自分に苛立ち始めていた。落胆と罪悪感を抱えて、私は自分の誕生日と友達に会う目的で数日の休みを取った。
休暇中のある日、友達と長い散歩に出て、手芸工作用品チェーン店「マイケル」の駐車場にいた。友人が花輪を作るのに使うスプレー塗料や造花を買おうとしていた。
突然、よく練られた研究テーマが頭に浮かんだ。その場で立ち止まり、スマートフォンのメモアプリを使って、忘れないように書き留めた。
その週はずっと「怠惰」で、研究に手をつけていないことに罪悪感があったが、その裏で私の無意識はバリバリと作業をしてくれていた。研究から離れて、クリエイティブになれる余地を与えることが必要だったのだ。
「怠惰は敵だ」の思い込みをやめる
やることが山積みのときには、とにかくその場で、できる限りのことを片付けたくなるものだ。
けれど、一時停止ボタンを押して、何もせず怠惰な時間を作り、そこでの気づきや反応を見極めたほうが効率は良くなる、と多くの研究が示している。
いったん減速して切り返すことで、切り捨てるべきタスクが頭の中で整理できる。「怠惰は敵だ」という思い込みをやめれば、タスクを手放すことにも罪悪感はなくなるはずだ。
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