落合:たしかに。そこに記名されたダミアン・ハーストがいる感じになっちゃう。家の中にいたら、ちょっと面倒くさいだろうな。自然に人がついてくるといろいろやかましそうだから。
暦本:そういう日本の美意識はカーム・テクノロジー的なところがありますね。
落合:人工的な所作によってできているのに、自然のふりをしている。
暦本:それは、ユビキタス・コンピューティング※2や、IoT※3の未来かもしれない。マーク・ワイザーが提唱したユビキタス・コンピューティングの概念をみんな勘違いして、「どこにでもいっぱいコンピュータ置けばいいんでしょ?」とガチャガチャになっちゃったので、「カーム・テクノロジー」と呼ぶようになったんですよね。
目立たない静かな存在でありながら、見えないところでちゃんとわれわれを助けるのが究極のテクノロジーだという考え方。京都のお寺なんかは、ある意味でカーム・テクノロジーっぽいですよね。
※2 ユビキタス・コンピューティング 社会や生活のあらゆるところにコンピュータが存在し、いつでもどこでも使える情報環境を意味する概念(「ユビキタス」は「遍在する」を意味するラテン語)。マーク・ワイザーは1988年に「PCに代わる、日常のあらゆるものに埋め込まれた見えないコンピュータ」を提唱し、それがこの概念の始まりとなった。
※3 IoT Internet of Things =モノのインターネットの略称。家電や自動車など周囲に存在するモノがインターネットにつながる仕組みのこと。IoTによって、モノを遠隔で操作したり、モノ同士の通信が可能になったりする。
アマゾンの倉庫から来るものは自然物?
落合:そうですね。柳宗悦は「民藝は人の手の美」といったんですけど、だからこそ僕は「テクノ民藝」があり得ると思ってずっと追いかけているんですよ。
いまの若い子は、木をポキッと折ってきて作品にするより、iPad に絵を描くほうが早いですからね。デジタルへの距離とハードへの距離が違うんですよ。山に芝刈りに行くより、アマゾンのほうが早いので。つまりアマゾンの倉庫から来るものは彼らにとって自然物。
暦本:一瞬、ブラジルのアマゾンからジェット機で運ばれてくるのかと思った(笑)。そっちじゃないほうのアマゾンですね。
落合:はい、Amazon.co.jpのほうです。あそこが面白いのは、産地がシャッフルされたハマグリとか売っているところですね。「ハマグリ500グラム」を注文すると、どこで採ったのかわからないハマグリが届く。いわばハマグリのエイリアス※4を売っているわけです。料理して友達に出すと「このハマグリ美味しい。どこで買ったの?」「アマゾン」みたいな。
※4 エイリアス もともとは「偽名」「別名」「通称」などを意味する英単語。IT分野では、コマンドやプログラムなどを別のシンボルや識別子で登録する機能のことを指す。