クラウドでの処理が必要な場合でも、デバイス上のAIによって送信する情報を細分化して送り、その結果をデバイス内で再構築する。例えば「娘の演劇を観に行くには何時に出発する必要があるか?」という前出の質問では、必要なスケジュール情報や位置情報を送信するが、その前に匿名化され、IPアドレスもたどれなくなる。
最後4つ目の違いは、サーバーを用いたクラウドAI規模のサービスを無料で提供できることだ。米ビッグテックの中で唯一、本業がハードウェア販売にあることも一因だが、自社開発のAIプロセッサーで構成するクラウドを運用するデータセンターが省電力設計で、それを100パーセント再生可能エネルギーで賄っている。デバイスとAI処理を分業することで負荷も下げることができ、結果として自社ハードウェアに内蔵する無料の機能として一体化できた。
ほとんどの機能をクラウドに依存し、無料モデルが中心のGoogleは論外としても、マイクロソフトのようにOffice 365という大きなの収益をもたらす製品を持つ企業でも、大規模なパラメーターのAIモデルを無料で組み込むことはできない。それゆえ、それを継続的にデバイスに付与する機能として使い続けられるというのは、大きなアドバンテージになりうるだろう。
“生成AIイノベーション”で独自の立ち位置に
もっとも誤解してはならないのは、生成AIにおいてアップルがライバルに「宣戦布告」をしたわけではないということだ。彼らが開発しているのは、すべて最終製品であるiPhone、iPad、Macの機能を高め、使いやすくするためのものだからだ。
例えば新しいSiriでは、リクエストされた処理を行うためにオープンAIのChatGPTを用いたほうがいいと判断した場合、ユーザーに同意を求めたうえでChatGPTに質問を送信する。ユーザーは自身のデータがChatGPTに送信されることを納得したうえで利用でき、また有料サービスに契約している場合は、最新モデルのGPT-4oも利用できる。
また、特定の医療知識、特定の国の法律に基づいた文書作成や手続き、規制などに特化して学習したモデルなど、カスタムAIモデルや今後登場する未知のAIモデルに対応できるよう設計されている。したがって、グーグルのAIモデルもいずれは利用可能になると予想される。それらは競合するものではなく、アップル提供の端末所有者を支援するための極めてパーソナルなAIだからだ。
例年以上に大きな注目を集めた「WWDC 2024」。そこでアップルが明確にしたのは、将来的に他社が提供するAIサービスと同社デバイスが連携することがあったとしても、競合することはないという立ち位置だった。
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