愛情を注ぐことと擬人化することは違う--『珍獣病院』を書いた田向健一氏(田園調布動物病院院長)に聞く
──この本には体重2・8グラムのカエルの開腹手術の例があります。
カエルを見れば、これは小さすぎて、手術はとても無理と思うかもしれないが、それしか治療の方法がなかった。飼い主にとってはペットへのいとおしさは同じで、種類や大きさで差別はできない。動物種に関係なく、家族同様に思う人が多くなっている。小さいカエルにさえ、死んだら泣く。心が貧しく、生活に困るようだったら、カエルに涙することはできないだろう。人間の秘めている、他者をいたわる心があふれ出るということか。
──犬に服を着させたりするのは過剰ではありませんか。
判断するポイントは不都合があるかどうかだ。犬が嫌がったり具合が悪くなるなら問題だが、そういうことはほぼない。最近の犬は首輪やリードと同様に、服を見せると、散歩に連れていってくれると喜んだりする。多くの犬は、慣れてしまえば何とも思わない。むしろ、飼い主が海外旅行に行くからと、ペットホテルに預け、孤独にするほうが問題だ。
──珍獣の病気とは。
犬猫では古典的な栄養性疾患や寄生虫がなくなってきて、今や脳手術や糖尿病の治療をしたり、抗がん剤投与や放射線治療をしたりと、高度設備が必要になってきた。それと比べ、珍獣はまだ栄養性疾患や寄生虫、伝染病など古典的な病気が多い。その期間を経て、犬猫のようにより高い次元の医療が必要になっていくのかもしれない。
──犬猫には腫瘍が多いそうです。
基本的に腫瘍は高齢化すると発生しやすくなる。昔の犬はほぼ7歳で死んだが、今は飼い方も餌もいいので20歳程度まで生きる。白内障の手術もけっこう多い。
また、遺伝性の疾患を科学的に見つけやすくなったので、遺伝性の病気が多くなったように見える。犬猫は人間が改造してきたから、野生動物ならば悪い病気があれば淘汰されたはずが、淘汰圧がかからないで、遺伝病を持ったまま生まれる。年を取れば絶対に関節や心臓が悪くなる因子を持った犬などがその例だ。