「行きすぎた円安は日本株にマイナス」は本当か 円安を問題視する空気が強まるとどうなるのか

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実際のところはどうか。筆者は、「日本の経済や金融システムに大きな問題があり、『日本売り』によって円安が起きている」という兆しなど、まったく感じない。日本経済は大幅な対外債権を保有しており、インフレ率が安定しているのだから、通貨危機はまず起こりえない。また、財政収支赤字は、税収の大幅増加で2023年末現在でGDP対比3%まで改善していると試算されており、今や、日本の財政赤字GDP比は、米欧主要諸国を下回っているのが実情だ。

「円安を問題視する空気が強まること」こそ問題

国内投資家による外貨建て資産への証券投資が増えていることが、円安を促している点を強調する見方もある。新NISA(少額投資非課税制度)をきっかけに、個人投資家の外貨建て投資信託などへの投資が増えているのは事実で、これを「資金逃避」として、ネガティブ(否定的)に考える見方が散見される。

「日本人投資家は、海外株ではなく、日本株に投資すべき」との考えがあるのだろうが、期待リターンが高い投資先に、リスク資産を傾けるのは自然である。そして、日本人による海外投資が増えていることは、為替リスクを積極的に負う動きが強まっていることを意味する。

もし、円安期待が家計や企業の「リスクテイクの姿勢」を強めているならば、それは望ましいだろう。というのも、日本国内では、「貯蓄>投資」の状況であり、安全資産への貯蓄に偏っていることで経済全体のバランスが崩れていることが、経済停滞の一因となっているからである。円安の長期化が、企業・家計の前向きな行動を促し、経済成長を支えると考えられる。

日銀は3月の金融政策決定会合で、YCC(イールドカーブコントロール)廃止を決定して、これまでの金融緩和の姿勢を若干変更した。それでも2%インフレの実現のために、利上げをゆっくり行う考えを示したことが、円安を長引かせている。今の経済成長率とインフレを踏まえれば、利上げを急がない日銀の対応は望ましいだろう。

仮に、円安進行に歯止めをかけるような経済政策を行えば、円安とリスクテイクの好循環を阻害して、それが日本の経済成長を抑制するだろう。円安を問題視する空気が強まることが、日本株市場にとって最も大きなリスクになると、筆者はやや警戒している。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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