野田財務相「大連立提唱」の深謀遠慮

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野田財務相「大連立提唱」の深謀遠慮

塩田潮

 「驚異の粘り腰」の菅首相も、ついに延命を断念した。

 退陣表明後の在任日数の新記録を残して政権の座を降りる。退陣が確定的となり、関心はポスト菅に移った。有力候補の野田財務相は早くも「自民、公明からの入閣」「大連立」を唱え始めた。谷垣自民党総裁はすぐに「大連立ノー」と従来の方針を重ねて強調して、拒否の姿勢を打ち出した。

 大連立はとくに3・11以後、「国難克服」「挙国一致」の声に後押しされて待望論が高まったが、時間の経過とともに、むしろ情報公開、権力のチェックとバランスの機能、民意による政治など、民主主義の機能重視が認識され、必要性は薄れてきた。大連立は代議制民主主義の死につながる選択である。民主党にとっては自滅と背中合わせだが、ねじれ克服のための「悪魔の誘惑」で、菅首相も目指し続けた。その事情はいまも変わらない。

 一方で、実は大連立をもっとも強く望んでいるのは、スムーズな法案成立を希望する官僚機構と見られる。

 中でも予算と関連法案の成立、将来の消費税増税実現を視野に入れる財務省は大連立志向が強いようだ。舞台裏でその根回しや仕掛けに動いているのではないかと思われるふしもある。野田氏は財務省の「推薦候補」とか「組織内候補」とからかわれているから、大連立路線は財務省との二人三脚では、と疑う人もいるだろう。

 だが、野田氏の大連立提唱は、実際は深謀遠慮の戦略ではないのか。まず大連立を提唱して自民党の出方を見る。もともと自民党の拒否は織り込み済みで、拒否なら「次善の策」と言って公明党やみんなの党と連立交渉を始める。目的は初めから「自民抜き、民公・民みん提携」だ。

 菅政権下は「民主党孤立」状態だったが、逆に「自民党孤立」に政治地図を塗り替える。自民党の加藤元幹事長は「公明党が『国民生活第一』といって方針を転換したとき、自民党はそれなら大連立で、というわけにはいかないのでは」と早くから孤立化を懸念していたが、公明党が自公提携解消、民公提携に走る可能性は消えていない。

 間違っているかもしれないが、もしかすると、野田氏の狙いは「敵は本能寺」なのでは。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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