戦争を始めた世界のエリートは自国民を守らない ミアシャイマー『大国政治の悲劇』が示す国家の自己保存

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ロシアの猛攻に対しもしNATOが本格的に介入すれば、世界大戦は避けられない。そうならないことを祈るが、ウクライナ政権がロシアとの停戦協定に進まない限り、ウクライナでの戦争が終わることはない。これも悲劇だ。

ゼレンスキーは国民を犠牲にしてウクライナ消滅を待つのか、それともNATOを巻き込んで世界大戦へ突き進むのか。世界はこの戦況を不安をもって注目せざるをえない。

国家の自己保存権

ロシアとNATOとの対決は、非西欧と西欧との対決でもある。ではなぜこうした対決が戦争へと至るのか。これまで膨大な学者たちがその解明を行ってきたが、これといった原因究明ができたわけではない。

経済的利益、領土問題、資源問題、支配欲、攻撃性向といった理由をいくらあげても、これといった戦争にいたる決定的原因がつかめたわけではない。

本来人間は理性的で、合理的であり、世界がそれを理解すれば戦争はないという国際均衡論の発想でも、戦争が防げるわけではない。社会主義国は利益の相反がないがゆえに戦争がないという議論や、民主主義国同士は戦争しないという議論も、これまで何度となく戦争によって破られており、今では説得力を失っている。まさに不条理に、突然戦争へと進むこともあるからだ。

こうした議論の中で、きわめて現実主義的であり、なおかつゲーム理論的な戦争論が出てきてもおかしくはない。ジョン・J・ミアシャイマーの『大国政治の悲劇』(奥山真司訳、五月書房、2007年、新装完全版は2019年)は、まさにそうした戦争の原因を追究した、興味深い書物だといえる。 

本書には国家は生存願望をもち、そのためならなんでも行うという前提がある。スピノザの時代、17世紀に盛んに議論されていた自己保存権(コナトゥス)を国家に当てはめ、そこから問題を展開するのだ。

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