しかしこの「忠誠心」を物差しにした場合、今プーチン氏が政権内で一番信用しているのは、今回ショイグ氏の後任として国防相になったアンドレイ・ベロウソフ氏だろう。経済担当の第1副首相だった同氏は、これまで政権内で地味な存在だった。
新国防相がプーチンの信頼を得た?
過去にも軍に関係する地位に就いたことのない、経済専門家だった。今回の人事発表を受け、ある著名なロシアの軍事専門家が「どんな人物か、慌ててネットで検索した」と言うほどだった。しかし、プーチン氏個人のみならず、大統領の家族とも親しい。これが今回の国防相起用のカギになったと筆者はみる。
こうしてみると、今回の人事全体で浮かび上がってくるのは、侵攻を続ける一方で、侵攻に不満を募らせた軍によるクーデターを恐れ、自分の周りを忠臣で固めようとする、老いた「独裁者プーチン」の姿だ。
ベロウソフ氏は国防相就任に当たり、一般予算と国防予算との効率的両立や兵器増産、さらに兵士の待遇改善などを掲げた。ショイグ時代の課題を的確に認識していると言える。
これには、筆者も少し驚いた。第1副首相時代は兵器用ドローン機開発の政府責任者でもあった。あるウクライナ政府高官は「ショイグに比べると、国防省という大きな組織を動かせる能吏だ」と警戒する。
このベロウソフ氏の国防相起用を巡っては、さらに興味深い観測がある。先述したように、同氏はプーチン氏の家族とも親しいが、とくに注目されているのはプーチン氏の次女カテリーナ・チホノワ氏との近い関係だ。政府内で活動するチホノワ氏は侵攻後、長女のマリヤ・ボロンツォワ氏とともに米欧から制裁を受けている。
ベロウソフ氏の今回の政権内での地位上昇の裏には、今後本格化する自分の後継者選定作業の中で、チホノワ氏を関与させようというプーチン氏の思惑があるのではないか、との見方が浮上しているのだ。
1999年に当時のエリツィン大統領がプーチン氏を自らの後継者として白羽の矢を立てた際には、エリツィン氏の次女がその夫とともに陰で決定的役割を果たしたと言われている。
首相期間を含めて大統領就任から24年。まわりまわって、みずからの後継者選定に当たって、プーチン氏が自分の「セミヤ」(ロシア語で家族)に大きな発言権を与えようとしている可能性がある。
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