安全保障会議書記ポストに、国防省や情報機関などを動かす実際上の権限はない。ショイグ氏はお飾り的存在になるとみられる。
一方で、ショイグ氏が今後もお咎めなしで済むかどうかはわからない。事件のほとぼりが冷めたのを見計らって、何らかの形で処罰されるとの見方も出ている。
更迭を慎重に進めたプーチン
プーチン氏はショイグ国防相を交代させるに当たり、極めて慎重に事前作業を進めた。ショイグ氏が更迭の動きに反発して軍事クーデターを起こすことを懸念して、軍が発表前に国防省周辺で鎮圧作戦の訓練を行ったと国防省関係者は証言している。この関係者はこう苦笑する。「モスクワでの特別軍事作戦だった」と。
これは、プーチン氏が軍部によるクーデターをいかに恐れているかを、端的に示すエピソードだ。2023年6月に起きた民間軍事会社ワグネル社による武装反乱事件の苦い記憶が鮮明に残っているのだ。
重武装した反乱部隊がモスクワに向け、何の鎮圧行為も受けずに進軍したことにプーチン氏は大きなショックを受けた。今回の政府人事を練るうえで最大のキーワードは自らへの「忠誠心」だったのは間違いない。
実はプーチン氏は、この反乱事件発生を食い止められなかったショイグ氏だけでなく、最側近だったニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記に対しても決定的な不信感を抱いたと言われる。
とくにパトルシェフ氏は当時、軍や情報機関部門の統括を任されていた政権ナンバー2だった。それにもかかわらず、反乱収束に向け一切動かなかった。これでプーチン氏はパトルシェフ氏を遠ざけたという。
パトルシェフ氏はプーチン氏とは旧ソ連国家保安委員会(KGB)の同僚で、年齢的にも70歳前半で同じ。ウクライナ侵攻に当たっても、事前にプーチン氏から聞かされていた数少ない存在だった。
つまり、ショイグ氏とパトルシェフ氏の政権最上層部からの排除は、2023年のプリゴジン反乱劇の時点で決まっていたと言える。
今回、パトルシェフ氏は大統領補佐官に異動したが、担当は造船だ。プーチン氏との接触は大幅に減るだろう。これで事実上、ナンバー2の座を失った。
反対に今回、忠誠心を買われて政権中枢に抜擢されたのは、トゥーラ州知事だったアレクセイ・ジュミン氏だ。大統領補佐官(軍需産業担当)に任命された。
知事時代、ワグネル社の反乱事件で同氏は、親しかったプリゴジン氏には付かずプーチン氏側についた。かつてプーチン氏のボディーガードでもあった。
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