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母の営むスナックで私が学んだ「考える力」の本質 ホステス「こずえちゃん」が取り除いてくれた偏見

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  • 井手 英策 慶應義塾大学経済学部教授
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彼女はカラオケがうまく、北島三郎を歌わせると天下一品、「夜汽車」が十八番だった。陽気な人で、お店は笑いで包まれていた。正直にいうと、暴れん坊の彼女を私は少し苦手に感じていたが、母はなぜかウマが合うようで、とてもかわいがっていた。

たまたま学校の宿泊行事があり、旅行先でお土産を買うことにした。母と叔母、2つ買えば十分だったが、ふと、いつもお店にいるこずえちゃんの顔が頭に浮かんだ。私は、深く考えもせず、彼女のお土産を買うことにした。

「あんたがこっそり渡したほうがこずえちゃんも喜ぶやろ」

母の助言を聞き、私は、少し遅れてお店に行くことにした。

扉の前で立ちすくんだ私

いつもなら迷うことなく扉を開ける。だが、思春期に差しかかっていた私には、お土産を渡すという行為が妙に大人びたものに感じられた。彼女にどう話しかけたらよいのだろう。私の体は棒のようにこわばった。

「こずえちゃん? こずえさん? 年上の人に『ちゃん』はおかしかよね」

5分だったか、10分だったか、答えが見つからず、私は、扉の前で立ちすくんでいた。すると、気配を察知したのか、突然ドアが開き、店のなかからこずえちゃんが話しかけてきた。

「英ちゃんやんね。なんばしよっと?」

面食らった私は、思わず、「どうぞ! こずえさん」と声をあげ、押しつけるように小さなお土産を突き出した。彼女は、一瞬、きょとんとした顔をし、その数秒後、こう言った。

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【何と言ったのか?】

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