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母の営むスナックで私が学んだ「考える力」の本質 ホステス「こずえちゃん」が取り除いてくれた偏見

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  • 井手 英策 慶應義塾大学経済学部教授
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異なる価値観を持つ人間が出会うことの大切さ――新たな価値観との出会いは、同じできごとをまったく違ったものに変えてくれる。人との出会い、それは可能性との出会いだ。

人間は思い込みの動物だ。だからこそ、「気づく力」と「想像する力」を養わなければならないし、それらの力は「理解する力」へとつながっている。

こずえちゃんの涙は、職種にはあらわれない<人間らしさ>に気づく力を、生きることに苦悩する<人間の心>を想像する力を私に与えてくれた。そして、その力は、自分とは違う世界にいると思われた人たちへの理解、共感へと私を導いてくれた。

私たち教育者は、子どもたちの「考える力」について考える。そして、いまの日本の教育の限界は、その力を育てられないことだ、という結論に終着する。

社会の階層化や所得格差を看過してはいけない理由

では、考える力とは、何か? それは、気づき、想像し、現象を理解する力だ。

もしそうなら、そんな力を育てたいのなら、教育だけでは足りない。異なる価値観を持つ人と人の出会いを大人たちが作っていかなければ。そして、その大切な出会いを不可能にするからこそ、社会の階層化や所得格差を、私たちは絶対に看過してはならないのだ。

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私には4人の子どもがいる。そのうち3人が私立の学校に通っている。同じような所得階層にあり、同じような価値観を持った人間の集団のなかで、私の子どもたちは学んでいる。

偏差値教育にどっぷり浸かってしまっている自分がいる。こずえちゃんは、いまの私を見て、どう思うのだろう。「英ちゃん、英ちゃん」と、あのころのように話しかけてくれるだろうか。それとも「井手先生」と他人行儀に呼ぶのだろうか……。

私は学者になり、暮らしの安定を手に入れた。だが同時に、この幸せは、社会の分断、階層化を加速させる原因の1つでもある。加害者にならないために何をすべきか。それを考え、実践し続けることが、私にできるこずえちゃんへの唯一の恩返しだ、と思っている。

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