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今年の全米オープンに勝ったローリー・マキロイがいい例です。去年は全米プロ、今年はマスターズで優勝を狙える位置にいながら自滅、苦しい試合を何度も味わった選手です。しかし、今年の全米オープンでは初日65を出すとそのまま独走、2位に8打差をつけての優勝でした。普通、優勝が手の届く位置に来るとスイングのテンポが速くなったり、アドレスにいつもより早く入りたくなったり、普段のゴルフができなくなるのです。まして、過去に大舞台でそういった失敗をしていると「また、失敗するかな」そんな不安が心をよぎるものです。
マキロイは、全米オープンでそれを克服したんですね。どんな風に? 私が想像するに、まず徹底的に体を鍛えたこと。大会3日目の朝の練習場で、激励の意味と体の出来具合を感じたくて、マキロイの肩に「やあー久しぶり」と触ってみたんですよ。すると厚い、厚い。私の手の平ではつかみ切れないほどの大きさでしたよ。スポーツマン同士は、そんなところから相手の日頃の過ごし方を感じるものです。
それに、プレーぶり。練習場では肩を触ってもにこやかな表情を崩さないマキロイだけど、試合に入ったら、日本風に言うと剣を手にした剣士のようだね。呼吸は自然体ながら眼光鋭く、つけ入るすきがないというか。ゴルフではなく「戦」なんですね。私も昔、「試合が始まると怖くて近づけない」と、ごく親しい人からも言われたことがあるけど、チョットおこがましいが、いい選手は、ゴルフもプレーが始まるとスポーツから「戦」に変わるんですよ。われわれの頃の海外遠征は、所属先の契約金を使って試合に臨んだものです。何試合も予選落ちをしたり成績が悪いと生活に響いてしまいます。「調子が良いの悪いの」なんて言っていられません、悪い時ほど頑張らないと賞金が手に入りません。まさに食を得るための「戦」だったんです。でも振り返ると、この切羽詰まった戦いが、後の優勝争いに大きく役立ったわけです。日銭が欲しい戦いより、すべてのファンに注目を浴びた優勝争いのほうが、楽しいに決まってます。「若人よ、苦から楽を学べ」そう言いたいのです。
1942年千葉県生まれ。64年にプロテスト合格。以来、世界4大ツアー(日米欧豪)で優勝するなど、通算85勝。国内賞金王5回。2004年日本人男性初の世界ゴルフ殿堂入り。07、08年と2年連続エージシュートを達成。現在も海外シニアツアーに参加。08年紫綬褒章受章。
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