東日本大震災 復興への提言 持続可能な経済社会の構築 伊藤滋、奥野正寛、大西隆、花崎正晴編~学者50人が示す多様な視角と英知
はしがきに「トピックスは広範囲にわたり、各提言が必ずしも整合的あるいは統一的なアプローチや理念に基づいているとはいえない」とあるが、学者50人の東日本大震災直後の思いや理想が率直につづられている。読み方としては、自分が賛同する意見だけを拾い上げ参考にするというやり方も一法だろう。
そうした視点で読むと、玄田有史・大堀研の「津波全壊地域には別の高台にエコシティ」を作ろうとする政府の姿勢を「地域の実情を考慮することなく、一方的に押し付けられたという感情」がある限り、合意形成は難しいとする主張、宮川公男の原発事故が想定外と言うのなら、それは「確率の世界の問題ではなく、そもそもそれが起こりうる事がらとしてさえ想定されていなかった」という批判、製造現場の力を信じる藤本隆宏の「万が一、円が暴落した時、現場は一斉に輸出拠点に化け、日本住民の雇用と生活を守る最後の砦となろう」との予測、柳沼寿の「東北地方が先陣を切って企業家能力養成」を据えるべきだとの提言、黒沢義孝の「外貨建て国債の発行によって力強い復興を期待したい」という願望、原発を論じる中での中村純一の「何か悪い情報が出てくることを恐れてはならない」という警句などに共感を覚える。
異彩を放つのが、間宮陽介の大学論だ。国家の教育や研究への介入が「口は出すが金は出さない」方向で強化されており、産学官の複合体に呑みこまれた事例が「原子力ムラ」だと言う。産学官協働の裏面を突いて秀逸だ。また前田正尚が新聞から引用している「津波の後の海はカキやホタテの成長が倍以上早い。人間さえ元気なら、海は元通りになる」は確かにその通りなのだが、その海が放射能で日々汚染され続けていることを忘れてはならない。(敬称略)
東京大学出版会 1890円 362ページ
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