しかし、雇用は07年から09年かけて7%(絶対数では76万人)減少しただけである。経済危機後の雇用の落ち込みが急激でなかったのは、雇用調整助成金によって失業を顕在化させなかったためと考えられる。それがなければ、すでに述べたように労働の弾力性は1より小なので、製造業の雇用減少はもっと大きかったはずだ。
労働の弾力性を2分の1とすれば、製造業の雇用は11×2=22%程度減少したはずである。絶対数で言えば、220万人程度だ。したがって、実際の減少76万人との差である144万人程度は、雇用調整助成金によって企業に留まった雇用者であると解釈することができる。これは、実際の値ともほぼ符合する(助成金の対象従業員は、09年3月で238万人、10年11月で100万人。なお、この大部分は製造業の雇用者と考えられる)。
ところで、製造業が放出する雇用を引き受けたのは、小売り・飲食などの、生産性の低いサービス業だ。そして、製造業の雇用者でも非正規雇用者が増えた。こうして賃金水準が下落した。このように90年代以降の「失われた20年」は、製造業の衰退によってもたらされたのである。
海外移転による国内雇用の減少
では、製造業の海外移転によって、国内生産はどこまで落ち込み、それによって国内雇用がどれだけ減少するだろうか?
この定量的評価は難しい。いくつかの仮定に立ったものにならざるをえないのだが、一つの目安として示しておこう。
経済産業省の資料によれば、97年度における製造業の海外生産比率(=現地法人売上高/国内法人売上高)は、アメリカが27・7%、ドイツが32・1%、日本が12・4%だった(「海外事業活動基本調査」、00年)。この定義での09年度における日本の海外生産比率は20・8%だが、これがドイツ並みになることは十分考えられる。
そこで、国内生産と海外生産の合計が不変であるとして、海外生産比率が32・1%にまで上昇するとすれば、国内生産は現在の水準から14・3%ほど下落する。
上記の労働弾力性を勘案して雇用がこの2倍の率で減少するとすれば、製造業の雇用は28・6%減少する。つまり、現在の約1000万人から300万人近く減少することになる。これは国内労働市場に対して極めて大きな影響を与えるだろう。