認知症の人が「死ぬ前、普通に話し出す」一体なぜ なかったことにされていた終末期明晰の謎に迫る

拡大
縮小
終末期明晰
死の直前、思考力などが思いがけず回復することを「終末期明晰」と呼びます。なぜこの現象は起きるのでしょうか(写真:mits/PIXTA)
知的能力を永久に失ったと思われていた患者の意識の清澄さや記憶力、思考力などが思いがけず回復することを「終末期明晰」と呼びます。なぜ、この現象は起きるのでしょうか?
本稿はアレクサンダー・バティアーニ著、三輪美矢子訳『死の前、「意識がはっきりする時間」の謎にせまる』を一部抜粋・再構成したものです。

常識の裏側にあるもの

今日、ある人が死の床についている。呼吸がしだいに遅くなり、脈が弱まり、心臓の拍動が不規則になる。そして、ややあって最後の息をする。この人に明日という日はない。来週も、来月もない。命がその幕を降ろしたのだ。そうして世界がひとつ、永遠に閉じられる。

だがこの人は、あるいはこの人の世界は、永遠に消えたのだろうか? すべては失われて、二度と取り戻せないのだろうか? それで本当に「終わり」なのか? わたしはこうした問いを、そのほかの多くの問いとともに論じていこうと思う。

これから語るのは、人の意識や思考、認知症、死と死にゆくことといった、現在のわたしの研究テーマにまつわる物語である。また、先の問いに関連する、驚くべき現象を目撃した人々の証言や個人的な物語も紹介する。彼らの多くは、わたしが関心を抱いている、とある終末期の現象がメディアで報じられたのを機にわたしに連絡してきた。そして、いまや鬼籍に入って久しい肉親や友人についての話をしてくれた。その死に様がとても感動的で美しかったことを、しかし、科学的にはどうにも説明がつかないのだということを。

次ページ「人生には意味があるとの確信が増した」と語る
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
TSMC、NVIDIAの追い風受ける日本企業と国策ラピダスの行方
TSMC、NVIDIAの追い風受ける日本企業と国策ラピダスの行方
【動物研究家】パンク町田に密着し、知られざる一面に迫る
【動物研究家】パンク町田に密着し、知られざる一面に迫る
広告収入減に株主の圧力増大、テレビ局が直面する生存競争
広告収入減に株主の圧力増大、テレビ局が直面する生存競争
現実味が増す「トランプ再選」、政策や外交に起こりうる変化
現実味が増す「トランプ再選」、政策や外交に起こりうる変化
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT