「兄達が突然死去」道長に立ちはだかる"最大の敵" 甥である伊周と繰り広げられた後継者バトル
続いて、粟田殿(藤原道兼)の人相を尋ねると「こちらも実に立派でございますな」と人相見は話します。ところが、またしても「しかし、道長様こそ、まことに優れた人相をお持ちです」と続けるのでした。
次に、伊周の人相について質問がありました。「こちらも大変、尊い人相をお持ちでございます。雷の相をお持ちですね」と、人相見は話します。
「雷?」と人々が不思議がると「雷はいっときは高く鳴りますが、後は続きません。ですので、伊周様の晩節がどのようなものになるか……。やはり、道長様こそ、素晴らしい人相のお人です」と人相見は答えるのです。
ここまで“道長推し”が強調されると、人相見は道長に買収でもされているのかと、半分冗談でツッコミたくもなりますが、とにかく、人相見はことあるごとに道長の人相を持ち上げるのでした。
周りにいた女房たちも、私と同じ想いを抱いたのかもしれません。「道長様はどのような人相なので、そのように、お言い添えになるのですか」と人相見に尋ねます。
人相見は「人相の書物には、人相の第一は『虎子如渡深山峯』(猛虎が辺りをにらみまわしつつ、高き奥山の峰渡りをする様)とございます。道長様の人相は、これと同じなのです。
また、道長様の容貌は、毘沙門天(仏法を守護する天部の神。四天王の1人)の威勢を見るようです。このような理由で、道長様の人相が、誰よりも優れていると言ったのでございます」とはっきりと答えたといいます。
ライバルである伊周の人相は?
『大鏡』も同様で「名人の人相見だ」と評しています。そして「伊周殿は、内大臣まで順調に出世されたので、人相見は最初は良いと言ったのでしょう。しかし、伊周殿に雷はもったいない。雷は地上に落ちたら、再び空に上がりますが、伊周殿はそうではありませんでした。星が地上に落ちて隕石になった(再び天に上がることはない)と表現したほうがよいでしょう」と続けています。
平安時代後期に成立した歴史物語『大鏡』は、藤原道長の栄華を中心に描いていますから、道長礼賛になるのは仕方ありませんが、隕石に例えられた伊周が少し可哀想に思えてくる話です。
(主要参考・引用文献一覧)
・清水好子『紫式部』(岩波書店、1973)
・今井源衛『紫式部』(吉川弘文館、1985)
・朧谷寿『藤原道長』(ミネルヴァ書房、2007)
・紫式部著、山本淳子翻訳『紫式部日記』(角川学芸出版、2010)
・倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社、2023)
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