黒田日銀総裁と高橋是清の「類似点」とは? ストラテジストの市川眞一氏に聞く(後編)

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これまでの歴史を振り返る限り、今、国民が歳出削減と増税を受け入れ、政治がそれに指導力を発揮する姿は想像しにくい。そこで、「インフレ税」の論議が台頭する。つまり、強力な金融緩和で大幅なインフレとなれば、家計の所有する金融資産の実質価値が目減りする一方、国の債務の実質価値も減少する。今ならば、個人金融資産と公的債務の総額はバランスするため、IMFなど国際機関の支援を受ける必要もないだろう。

白川前総裁時代の2013年1月、政府は、日銀と共同声明を発表した。この声明で、日銀は2%の物価目標を約束している。ただし、政府も成長戦略と財政健全化を日銀に約束した。したがって、仮に大幅な物価上昇が起った場合、日銀だけがその責任を問われるのではなく、政府も成長戦略と財政健全化への努力を問われることになるはずだ。

インフレ進めば国民の生活水準は維持できず

――では、ハイパーインフレは避けられない?

日銀のバランスシートが急拡大していることから、もし、国債市況の急落と円安が同時に進んだ場合、インフレ率を2%でコントロールするのは非常に難しいだろう。

デフレが好ましいとは思わないが、20年近くデフレが続いたにも関わらず、日本人の生活水準が大きく落ちなかったのは、現金を多く保有している高齢者にとって、資産価値が向上したからに他ならない。この高齢者層が子供や孫の消費をサポートすることで、日本経済は実質成長を維持してきたといえそうだ。

しかしながら、インフレとなれば、むしろ高齢者は保有資産の実質価値を失う可能性がある。その時には、先達が積み上げた過去の蓄積には頼れないため、否応なく日本でも本当の経済構造改革が進むのかもしれない。

国家安全保障政策は、国際情勢の大きな変化の下、抜本的に見直す時期にきていると思う。具体的な手段に議論の余地はあっても、安倍政権の進める安保・外交は、非常に重要なものだろう。

ただし、それと同等以上に重要、かつ安全保障と不可分なのは、経済構造の転換ではないか。雇用制度改革や外国人労働者の受け入れ、移民問題、財政再建など、経済政策においても、追い込まれて止むを得ず実施するのではなく、将来のリスクを未然に防ぐ先手必勝型の姿勢が求められる。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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