就職氷河期の閉塞感は、市場競争に対する支持を失うという意味で非常に大きな問題点をはらんでいる--大竹文雄・大阪大学教授
人生で成功するためには勤勉よりも運やコネが大事だと思っている人の比率を見ると、05年の時点で41%の人がそう思っていました。多くの国を並べてみると、どちらかというと運やコネが大事だと考えているグループに入ります。これは非常に予想外でした。
これを見て「なるほど。ディ・テラとマカロックの言っていたことは正しかった。日本人は勤勉ではなく、運やコネが成功するうえで大事なことだと思っている国に入っているから、反市場主義の国になっているのだ」と理解しました。
一方で中国は、運やコネが大事だと思っているのは25%。勤勉で成功できる国だと思っているのです。日本人の閉塞感は、大陸ヨーロッパで階級社会的な国、たとえばフランスやイタリアに近い。私は非常に驚いたと同時に、ディ・テラ、マカロックの研究に納得しました。
しかし私は、以前は日本人は勤勉を重視する国だと習ってきましたし、そのように思っていました。では、どこかで変わったのではないかと疑問に思い先ほどの世界価値観調査の過去の統計を見てみました。
05年は、先ほど申し上げたとおり41%ですが、10年前は実は2割、今から20年前だと25%という数字でした。その数値は、世界でも最も勤勉を重視するグループに入ります。やはり日本人の価値観は、1990年代後半から2000年代前半のどこかで大きく変化したと考えられます。
これは何によるのだろうと思っていたのですが、そのような価値観への影響について、ギウリアーノとスピリンバーグという人たちによる研究があります。
彼らの研究で比較的最近出た論文では、ちょうど就職する時期、18歳から25歳の年齢層のときに不況だったかどうかが、その世代の価値観を決めるということを明らかにしています。
高校や大学を卒業して就職する時期に不況を経験するかどうかが、大きな影響を与えます。このときに不況を経験すると、努力よりも運だと考え、再分配を支持します。再分配を支持する点は少し日本と違うかもしれません。また、公的な機関に対する信頼を持たなくなります。
こういった価値観を持つことで、市場主義、資本主義をサポートしなくなる傾向が生まれることを明らかにしました。
さらに、この価値観は年をとってもあまり変わらないことも明らかになりました。アメリカの年齢別、州別のデータを使い、各世代の人たちが卒業した時点で不況だったかどうかを調べ、価値観との関係を調査したことでわかったようです。