就職氷河期の閉塞感は、市場競争に対する支持を失うという意味で非常に大きな問題点をはらんでいる--大竹文雄・大阪大学教授
定期的に世界各国のいろいろな価値観を調べているアメリカのミシガン大学の世界価値観調査があるのですが、その中に次のような質問があります。同じ年齢で同じ仕事をしている人が2人いて、その能力に差があったときに賃金格差があるのは不公平かどうかという考え方です。
日本は1981年と90年の調査では3割から4割の人が、同じ仕事で同じ年齢だったら能力が違っても賃金が同じであるべきだと考えていました。もちろん過半数は、不公平ではないと言っています。
ところが95年には、同じ賃金であるべきだと考える人の割合は18%に減り、02年には12.5%まで減りました。おそらくこの間に、実際に日本の社会の中で年功賃金という制度が随分減ってきたことが反映されて、その価値観もここまで変わったのだと私は思っています。
比較的短期間の間に変わってきたということですから、市場に対する価値観も、実際の日本の市場のシステムや政治、制度、教育の変化に伴い大きく変わる可能性があるのではないかと思っています。
就職氷河期における価値観の影響
次にお話ししたいのは、なぜこのタイミングで非常に反市場主義的な政権ができたのだろうということです。そのヒントとなる研究がいくつかありました。
市場主義という形があまり信頼されていない国は、日本以外にもいくつかあります。その特性を明らかにしたのが、ディ・テラ、マカロックという2人の研究です。
彼らの研究によれば、市場主義や資本主義を支持するかどうか国際比較統計で分析すると、価値観として大事なことがいくつかあるということでした。
1つは、勤勉が成功につながるという価値観を人々が持っているということです。コネではなく、努力したら成功するという価値観が、市場主義に対する信頼をサポートするために重要だと。
もう1つは、汚職がないということです。公務員が汚職でおカネを渡せば利権をくれるというシステムだと、成功は努力と無関係であるという形になるわけですから、汚職はない、勤勉が大事だというこの2つの価値観がある国では、資本主義や市場主義を多くの国民がサポートしているという研究結果が出ています。
私は、彼らの論文を読んだときに、日本は勤勉を重視する国だったはずだから、彼らの説では説明できないのではないかと思いました。しかし、実際にデータを集計して驚きました。