村上を孤独にさせなかった名指揮官の「伝える力」 「オレはお前と心中だ」栗山英樹が下した覚悟
信じてもらえるということの大きさを、僕は知っていました。「さぁ、行ってこい。オレはお前を信じた、お前で決めてくれ」という思いが、いかに大きなものなのか。それを知っていました。
村上が待っているところに、僕は城石憲之コーチを送り込んでいました。そして戻ってきた城石にこう伝えました。
「すまない。もう一回、ムネのところへ行ってくれ。『お前が決めろ』と、もう一回、言いに行ってきてほしい」
選手というのは、まわりがバントを準備していたりすると、代えられるかもしれない、という空気をつかんでしまうものです。だから、そのすべてを消させて、覚悟を伝えたかった。僕の覚悟を伝えるという作業が必要でした。
「決めるのは、お前なんだ」ということです。それでも、結果が出るかどうかはわからない。
ただ、意外なことにあの正念場で、僕は案外、ドキドキしていませんでした。「オレはお前と心中だ」と決めていたので、けっこうゆったりしていたのです。
「お前でやられたら、オレは納得がいく」
監督として選択をして、選手を送り出したとき、「やっぱり違ったかな」と迷うことがこれまでなかったと言えば噓になります。しかし、あのときは一切それがなかった。
「さあ、行け、ムネ」という感じでした。
では、なぜそう確信できたのか。しかも、瞬時に。正直、はっきりとはわかりません。もしかすると、僕は神様と会話していたのかもしれません。
「ここまでこうしてやってきて、この状況でバントは相当なプレッシャーがかかるぞ」
「では、一番、思い切れる形って、何だろう」
「それはお前、ムネと心中すると思って、ずっとやってきたんじゃないか」
「そうか、行くか」
一方で、こんなささやきも遠くから聞こえてきます。
「これ、もし内野ゴロを打ったら、ダブルプレーであっという間にツーアウトになる。この大事な場面、まわりの選手たちも絶対にバントだと思っている。選手たちの納得する形にしてやりたいとは思わないか」
余計なことを考え出す自分もいるのです。それでも最後は「ムネ、お前と心中だ」でした。
「お前でやられたら、オレは納得がいく」
これこそが、決め手だったのです。
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