村上を孤独にさせなかった名指揮官の「伝える力」 「オレはお前と心中だ」栗山英樹が下した覚悟
「信じ切る力」とは、そういうことだと僕は思っています。信じている、の一歩先にあるもの。どこまで本気で自分が信じられるかということ。「この試合に勝つなら、お前が打って勝つはずだ」という思い。
それにしても、スーパースターというのは本当に気の毒です。こういう大事なところで打順が回ってくるのです。他の試合でも、チャンスで村上に回ってきたことが何度もありました。村上自身も「またオレか」と思ったと言っていました。
でも、そういうものなのです。スター選手というのは、試合を決める人たち。それが宿命なのです。だからこそ、それを村上に背負わせたかった。背負わせるべきでした。
結果は皆さん、ご存じの通りです。3球目、村上の打球はセンターの頭上を越えてフェンスを直撃しました。2者が生還して、日本は劇的な逆転サヨナラ勝ち。
打った瞬間、全員が駆け出し、ベンチはあっという間に空っぽになりました。チームの誰もが、村上を祝福しました。みんなで喜びを爆発させました。
侍ジャパンは、最高のムードで決勝戦に向かうことができたのです。
野球人としての最高の幸せをかみしめて
さぞやベンチの中で緊張していたのではないですか、と聞かれることがあります。
2023年3月21日(現地時間)、アメリカ・フロリダ州の野球場「ローンデポ・パーク」。日本対アメリカ戦は、第5回WBCの決勝、世界一を決める大一番でした。
実際には、緊張どころか、僕はもう楽しくてしょうがなかった。その場にいることに、とにかくワクワクしていました。
夢だったからです。メジャーリーグ選手を擁するあのアメリカのドリームチームと、日本代表の侍ジャパンが決勝で激突するのです。そこに、監督として居合わせるのです。
僕は、野球人としての最高の幸せをかみしめていました。これ以上のご褒美はないと思っていました。
2023年のWBCで日本はなぜ、世界一になれたのか。そんな質問を、僕はたびたび受けるようになりました。
そして僕自身、人生最高の瞬間をなぜアメリカの地で迎えることができたのか。それを考えるようになりました。
僕が今、最も伝えたいこと。それは、「信じる」こと、もっと言えば「信じ切る」ことの大切さを、改めて日本の人に思い出してほしい、ということです。
その力は、誰かの、そして自分の人生を、さらには世の中を、大きく変えることになると、僕は信じています。
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