人の欲求に最大限応え形作られた日本のラブホ 昭和、平成、令和…日本ラブホテルの変遷史
6年前、フリーでカメラマンをしていた私の元に、あるカップルから依頼が舞い込んだ。私はこれといった実績のない無名のフリーカメラマンだが、撮影者が女性だと、彼女が安心するという理由で選ばれることが多い。
きっかけは不倫カップルからの撮影依頼
「2人だけの秘密の結婚写真が欲しいんです」と。撮影場所に指定されたのは、「川崎迎賓館」というラブホテルだった。
ただのホテルではない。ロココ調メゾネットの部屋には、お姫様が下りてきそうな美しくカーブした白い階段があり、見上げれば天使が描かれた天井画と、ベネチアングラスのシャンデリア。その名にふさわしく、桁外れの豪華で息をのむほど美しい内装。こんな世界があったのか・・・と仰天した。
まさに昭和の豪華絢爛な世界観が反映された最高峰のラブホテルだった。「思い出を形にしたかった」と女性は言った。実らぬ恋、せめて2人だけの秘密の結婚写真が欲しい。私はカップルの幸せそうな姿をシャッターに納め続けた。
その時に、私は「カップルの向かう先は結婚だけではない。カップルの最高の思い出の地が必ずしも、ハネムーンや結婚式場とは限らない」と気づかされた。人目を避けて会いたい2人が、思い出を 刻む場所として選んだのが「川崎迎賓館」だった。
そんな2人を目の当たりにしてからラブホテルへの考えが変わった。それまでの私は「ラブホテル」はベッドと風呂があればいいという考えだったが、これを機に考えが大きく変わった。
要人が使うわけでも、文化遺産として残るわけでもない。名も知れぬカップルのためだけに用意された空間だ。この密室空間はあくまでカップルの思い出になる手助けにすぎない。
しかし、それが2人にとって最高の一夜になるように、空間を演出するためのデザインをはじめ、さまざまな叡智を重ねたパイオニアたちが存在したのだ。
どうすればカップルが喜んでくれるか、一生の記憶に残る営みになるか、検討を重ねて具現化してくれた愛の王国を建国した王様だと言っても過言ではない。
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