他方、ベースアップは、「ほぼゼロ」の状態が長く続いてきた。つまり、賃上げはなかったけれども、物価も上がらなかったから暮らしはなんとかなった。でも、税や社会保障負担の増加分だけ確実に苦しくなった、という近年の状況が浮かび上がってくる。
そうか、そういうことであったか。やはり「物価と賃金の好循環」は大事なのである。日米経済の過去20年を振り返ってみると、そこに大きな違いがあったのだ。
賃上げを受けて、個人消費が伸びるのか
ただしご案内の通り、日本経済の硬直した「物価と賃金」の構造には現在、風穴が開きつつある。3月15日には、連合が春闘の第1回回答集計を発表した 。
「今年は相当に高い数字が出るぞ。エコノミスト予想平均の3.7%なんかでは済まないだろう」と筆者は踏んでいたけれども、前年比5.28%という数字を見て思わずのけ反った。いわゆる「定期昇給分」が1.6%として、ベアは約3.7%になる。これなら「2%の物価目標」に負けない水準だ。ちなみに昨年の賃上げ率は3.58%であった。
この結果を受けて、翌週3月19日には日本銀行が長年にわたる「異次元緩和」を取りやめた。マイナス金利を解除したのみならず、YCCなど長期金利をコントロールする枠組みも廃止した。ETF(上場投資信託)やJ-REIT(不動産投資信託)などの新規買い入れも終了。今後は短期金利の操作によるごく普通の金融調節に戻る。「賃金が重要」「春闘を重視する」と言い続けてきた日銀にとって、3月15日の第1回集計は文字通りの「満額回答」であったのだ。
実際には春闘はこの後も継続し、連合は7月まで集計を繰り返す。ただし例年の作業を見る限り、1回目と最終7回目の数値はほとんど変わらない。特に今年の場合は「一発回答」が多いようなので、労使交渉が長引くことは少ないだろう。
実際の賃金の改定作業は、5月頃から夏場にかけて少しずつ反映されていく。問題はこの賃上げを受けて、個人消費がちゃんと伸びるのか。そのうえで物価も堅調に推移するかどうかであろう。4月以降の消費と物価のデータを、しっかりウォッチしていく必要がある。
企業が賃上げした分を、ちゃんと取引価格に転嫁できるかどうかも気になるところだ。そうでないと、来年の賃上げができないことになってしまう。何しろ「物価と賃金の好循環」はまだ2回り目に入ったばかり。定着するかどうかは、まさにこれからである。
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