日本が誇る潜水艦、その販売合戦の裏側 潜水艦の実力は何で決まるのか?

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潜水艦の潜望鏡(左)給気筒(右)と排気筒(右下)。写真は「おやしお」型潜水艦「たかしお」 (写真/海上自衛隊)

通常型潜水艦には、原子力潜水艦と比べ、大きな壁が立ちはだかっています。通常型潜水艦が水中を行動する場合は、2次蓄電池からエネルギーを得ています。したがって、行動のどこかで蓄電池を充電しなければなりません。

現在では充電のために浮上する必要はありませんが、やはり給気筒という銭湯の煙突のようなものを水面に出して空気を取り入れ、ディーゼル・エンジンを動かし、充電します。スノーケルの実施です。しかし、スノーケル中は給気筒を水面に出しているので、敵のレーダーに見つかり易いという問題があります。

潜水艦の最も重要な能力は、静粛性

それ以上に問題なのは、ディーゼル・エンジンの轟音が水中に伝わっていくことです。先ほど「潜水艦の評価には基本的な要素がある」と述べましたが、それは「どれだけ潜水艦が静粛であるか」ということなのです。

潜水艦の隠密性にとって大敵は音です。海の中には電波も光もほとんど届きません。もし、潜水艦を見つけようとすれば、音に頼るほかありません。このため、潜水艦は音を出すことを極度に嫌います。

1987年の東芝機械ココム(対共産圏輸出統制委員会)違反事件、2009年の音響測定艦「インペッカブル」(米海軍)に対する中国の妨害行動も、音にかかわる事件でした。中国の海軍工程学院の教授が、「潜水艦の静粛化(雑音低減と言います)に貢献した」として、人民解放軍と海軍の両方から表彰されたのは最近のことです。

もちろん、潜水艦の音に関する情報は、各国とも非常に高い秘密の項目に指定されています。それでも、たとえば中国の「元」級潜水艦について、『ジェーン海軍年鑑』には「推進方式はディーゼル電気推進で、AIP(※)としてスターリング・エンジン2基が搭載されている」と書かれています。このことから、少なくとも「元」級潜水艦は、スノーケルをあまり行うことなく水中での行動を持続でき、探知しにくい潜水艦である可能性があることを示しています。日本の潜水艦も、蓄電池をこれまでの鉛蓄電池からリチウムイオン電池に替えます。これにより、電池で水中を行動する期間が飛躍的に向上することになります。(※Air Independent Propulsion system:非大気依存推進装置)

潜水艦の評価は、このように「隠密性」「静粛性」という根本の上に「攻撃力としてどのような武器体系が装備されているか」などが考慮されて、下されます。拙著『潜水艦の戦う技術』でも詳しく触れましたので、併せて参考にしていただければ、より理解が深まると思います。

山内 敏秀 太平洋技術監理有限責任事業組合理事首席アナリスト

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1948年、兵庫県生まれ。1970年、防衛大学校(第14期)卒業(基礎工学1専攻)。海上自衛隊入隊。1982年、海上自衛隊幹部学校指揮幕僚課程学生。1988年、潜水艦「せとしお」艦長。1996年、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修了。2000年、防衛大学校国防論教育室教授。2004年海上自衛隊退官。現在は、太平洋技術監理有限責任事業組合理事(安全保障担当)、首席アナリスト。主な著書は『軍事学入門』(かや書房、共著)、『潜航』(かや書房)、『中国の海上権力』(創土社、編著)

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