斎藤幸平氏「大学で『古典』を読むべき理由」 新入学生に贈る令和版「大学で何を学ぶか」

✎ 1〜 ✎ 11 ✎ 12 ✎ 13 ✎ 最新
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

堀内:アカデミズムと実社会との関係という意味においては、そのようにあるのが理想ですよね。

斎藤:私の場合は、社会を変えるための一つの手段として研究者という道を選んだので、そもそもの順番が逆なのかもしれませんが、とにかく、社会の不都合を変えるために尽くすことが知識人の使命だと考えています。

ところが昨今の一つの傾向として、「象牙の塔」に閉じこもり論文が認められればよいと考える人が多くなることは、社会にとって良いことではありません。研究の対象が研究費をもらいやすいはやりのテーマを選ぶといったことだけに矮小化されてしまえば、そもそも教養などなくてもいいということになってしまいます。

「良き社会」のための研究を

たとえば経済学の中でも、実社会とは直接結びつかない経済史は要らないのではという声もあります。本来、経済の研究を通じて社会をより良くしていくことが、経済という学問の目的だったはずなのに、いつの間にかトップジャーナル向けの論文が書ければいい、ビジネスでいえば金儲けができればいいというきわめて狭い視点に立つようなあり方が主流になりつつある。

先に名前が挙がった宇沢弘文さんや、私が尊敬しているのは大阪市立大学の宮本憲一先生は、今も94歳でご存命ですけれども、宮本先生と宇沢先生は沖縄の問題などにも取り組まれ、長く情報を発信してこられました。その背後には、一貫して「良き社会」のためにという想いがあったのだと思います。なかなか簡単ではありませんが、こうした偉大な先人たちの功績をしっかりつないでいく、そのことに少しでも貢献したいということが自分のモチベーションとなっています。

(構成・文:中島はるな)

斎藤 幸平 東京大学大学院准教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

さいとう・こうへい / Kohei Saito

1987年生まれ。専門は経済思想・社会思想。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。Karl Marx’s Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』堀之内出版)によって、「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞。50万部を超えるベストセラー『人新世の「資本論」』(集英社新書)は、「新書大賞2021」を受賞。「アジア・ブックアワード」で「イヤー・オブ・ザ・ブック」(一般書部門)に選ばれた。

この著者の記事一覧はこちら
堀内 勉 多摩大学社会的投資研究所教授・副所長、HONZ

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ほりうち つとむ / Tsutomu Horiuchi

外資系証券を経て大手不動産会社でCFOも務めた人物。自ら資本主義の教養学公開講座を主催するほど経済・ファイナンス分野に明るい一方で、科学や芸術分野にも精通し、読書のストライクゾーンは幅広い。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事