斎藤幸平氏「大学で『古典』を読むべき理由」 新入学生に贈る令和版「大学で何を学ぶか」

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最終的に、フリーマン奨学金という全額給付型の奨学金を得られたこともあってウェズリアン大学に進学したのですが、奨学金を受けるには一つ条件がありました。それは「将来、アメリカに残るのではなく自分の国に戻って、本学で学んだことを社会に還元していく気持ちをもって勉学に努めるように」というものでした。

このことは、大学卒業後、現在に至るまで自分の意識の中に強く残っていて、私は研究者としてはマルクスを専門に研究しているわけですが、そこだけにとどまらずに、たとえば気候変動問題や持続可能な社会についてなど、ある種のアマチュア主義的な部分を持ちつつ、また最近ではテレビのコメンテーターなども含めて社会に対して積極的に発信することを意識しています。

加えて、現在、リベラルアーツ教育を掲げている東大の駒場という場所で教育に携わっているということでも、フリーマンさんとの約束を1つ果たせているという感じがしています。

アメリカのリベラルアーツ大学を志した理由

堀内:私の周りでは、親が海外のボーディングスクールへ行くことを勧めたり、日本にあるインターナショナルスクールに入れたりという人は多いのですが、自分から日本を飛び出してアメリカで勉強したいと思う人はとても少ないような気がします。

私の知り合いでは、自分の意思で日本の学校を辞めて海外に行ったというのは、UWC ISAKの理事長をしている小林りんさんと、ミクシィの元社長の朝倉祐介さんの2人しかいません。斎藤さんのように、日本で育ちながらも自分で大学や奨学金を探してきて、よし、海外に行くぞという方は同世代でもほとんどいなかったのではないでしょうか。

斎藤:私の通っていた芝高校からは初めてだったと思いますし、ちょうど私の世代がその始まりかもしれません。その後、だんだん開成や麻布の卒業生でも東大に行かずハーバードなどに行くような人たちが出始め、いまではそのような子たちが一定数いるのでしょうね。

堀内:最近の若い世代で世の中で名前が売れているような政治家や芸能人、学者でも2世、3世の人が多いですよね。生まれたときから親の背中を見て、家庭環境がそうだったから自分も同じ道を進みましたという。先日も『情熱大陸』で斎藤さんのご両親が出ていらっしゃいましたが、ごく普通の日本の家庭とお見受けしました。にもかかわらず、お話をうかがっていると、斎藤さんは突如自分で決意して邁進し始めたような印象を受けます。

斎藤:私の親は学者でもなく、特段、文化資本が厚い家庭に育ったわけではありません。私自身、高校生の頃は、勉学よりサッカーやバンドに夢中という学生生活を送っていました。

しかし、イラク戦争や自衛隊のイラク派遣などのニュースを見る中で、受験のための暗記中心の勉強に疑問を持ち、もっと自分の頭で考えなくてはいけないと思うようになりました。それで、まぁ単純といえば単純なのですが、アメリカのリベラルアーツで幅広い視点から学びたいと考えるようになりました。ですから、ハーバード大学やイェール大学といったアイビーリーグで政治学とか経済学とか専攻を決めてしまうのではなくて、いわゆる小規模のリベラルアーツ・カレッジにこだわりました。

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