「客の声、反映しても売れない」悩む人に欠けた視点 購買意欲を喚起するための「インサイト」の重要性

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マクドナルドが本質的に提供している価値は、「ジャンキーさ」という健康とは対極の存在だったわけです。実際、その後に発売された、肉とカロリーを大幅に増量した『クォーターパウンダー』や『サムライマック』は、「大人を、楽しめ」「行きたい道を切り拓け。」という、ジャンクフードへの欲求を肯定するコピーとともに大ヒット商品となりました。

このように、顧客が自覚しているニーズと、実際に消費行動に移るための行動原理であるインサイトはしばしばズレが生じます。「データは事実であるが真実ではない」という言葉があるように、ニーズは時としてうそをつく。

「牛乳が飲みたい」と思うのはいつ?

最近の脳科学の調査によると、消費者は自分の好みや望みを明確に伝えるどころか、「認識すらできない」ともいわれています。だからこそ、顧客の声を鵜呑みにせず、そこから深掘りをして仮説を見出していくプロセスが必要になるのです。

消費者の欲望のツボであるインサイトをうまくついて、顧客の行動を変容させたエピソードをいくつかご紹介しましょう。

1980年代のアメリカ・カリフォルニア州では牛乳の消費量が年々下降線をたどっていました。焦る牛乳メーカーの組織「カリフォルニア牛乳協会」は、テレビCMを打って牛乳を飲むメリットを顧客に訴求します。牛乳は健康に良い、牛乳を飲むと背が伸びる、牛乳にはリラックス効果がある……。しかしながら、いずれも大きな成果にはつながりませんでした。

それもそのはず、消費者視点で考えてみれば、これらはいずれも「牛乳を思わず飲みたくなる」ようなメッセージになっていません。では、どうすればそんな心理状態になるのでしょう?

牛乳協会は、その謎を解き明かすためにある実験を行いました。多数の協力者を集めて、たったひとつだけ、ルールを伝えました。「今日から2週間、何があっても絶対に牛乳を飲まないように」と。そして実験終了後、協力者たちに、牛乳を禁じられている間、痛切に「牛乳が飲みたい!」と思ったのはどんなときだったのかをリサーチしたのです。

結果、明らかになったのは、牛乳を飲みたくて仕方なかったと多くの人が感じた瞬間は、健康になりたいと思ったときでも、背を伸ばしたいと思ったときでも、リラックスしたいときでもなく、「ボソボソのクッキーを食べているとき」だったということでした。これこそが、消費者が牛乳に対して抱えているインサイトだったのです。

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