始まりは"のど痛"から「人食いバクテリア」の怖さ 抗菌剤服用を途中で勝手にやめるのは「超危険」

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溶連菌に感染した場合、このような合併症を予防するために、長期間(通常は10日間)の抗菌剤の内服が推奨されている。服用しなかったり、途中で服用をやめたりするなどで溶連菌感染を放置した場合、後述するような合併症を起こす可能性がある。溶連菌感染は要注意だ。

患者の中には、溶連菌感染を繰り返す人がいる。このような人は喉が痛くなると、すぐにクリニックにやってくる。それは、「カロナールやロキソニンではなかなか治らなかった喉の痛みが、抗菌剤を飲むとぴたりと治まった(患者談)」という経験があるからだ。

事実、溶連菌感染で抗菌剤は、痛みを和らげるという意味でも有用だ。少しでも疑った場合、最寄りのクリニックを受診してほしい。

劇症型の致死率は30~70%

溶連菌感染は咽頭炎以外にも多様な合併症をもたらす。なかでも怖いのは壊死(えし)性筋膜炎、蜂窩織炎(ほうかしきえん)だ。

前者は筋膜の浅い部分、後者は皮下組織で溶連菌の感染が拡大する。

多くは手足から感染が始まり、急速に拡大する。感染した部位に痛みや腫れ、発熱を生じ、感染組織が壊死することもある。多臓器不全を起こして、死亡する患者が多く、致死率は30~70%とされている。

このタイプの合併症は進行が速く、重症化するため、劇症型溶連菌感染症といわれる。溶連菌の別名は「人食いバクテリア」だ。

劇症型溶連菌感染症は、1980年代半ばから欧米で報告されるようになり、わが国では1992年に千葉県旭中央病院の医師たちが最初に報告した。医師の間で認知度が高まった影響が大きいのだろうが、報告された感染者数は増加し、2019年の年間患者数は894人となる。

注目すべきは、コロナ流行後の推移だ。感染者数は一時的に減少するが、2022年から再増加し、2023年には941人(速報値)と、過去最多を記録した。

実は最近、筆者も劇症型溶連菌感染症の患者の相談にのった。医師になって初めての経験だ。患者の父親が旧知で、「左上腕が腫れて、強い痛みを訴えている。どうしたらいいでしょうか」と、電話で相談を受けた。

患者は20代後半で持病はない。まず問題はないだろうが、痛みがあまりにも強いので、「とりあえずは最寄りの救急病院を受診してください」と助言した。数日後、父親から「劇症型溶連菌感染症と診断され、入院中です。もう数時間遅れたら命が危なかった」との報告があった。

このケースは示唆に富む。というのも、最近、若年者で劇症型溶連菌感染症が増えているのだ。

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