(第6回)震災後に加速している製造業の海外移転

国内雇用の創出が重要な課題

増加した投資によって建設された工場が稼働を始めれば、現地での雇用が増えることになる。

1~3月期の海外現地法人の従業員数は361・3万で、前年同期比4・6%増と5期連続のプラスになった。国内製造業の雇用者はほぼ1000万人だから、海外がすでに3分の1を超えていることになる。

海外進出している大企業では、海外雇用の比率はもっと高いはずだ。パナソニックが新規採用の8割を外国人にしたが、設備投資の状況を見れば、それもも納得できる。同じことがほかの企業でも生じるだろう。

その反面で、国内製造業の雇用は減少するだろう。これまでも、国内製造業の雇用者は緩やかに減少を続けてきたが、今後は急激な雇用縮小が生じる可能性が高い。

これはアメリカが1980年代に経験したことである。スティーブン・キングの小説を読むと、「これまであった工場がなくなった」という記述がしばしば出てくる。80年代のアメリカは、脱工業化を経験したのだ。日本はこれまで円安政策をとって製造業を国内に温存してきたが、これからはキングの描くような状態が日本でも生じる可能性が高い。

したがって、国内雇用の創出が重要な課題だ。たとえば介護事業に転業するようなことも考えられてしかるべきだろう。工場跡地に大規模な介護施設を建設し、これまでの工場従業員が介護職に転向するといったことである。日本の製造業は、従業員のマネジメントの点で定評がある。そのノウハウは、事業の内容が自動車の組み立てから介護に変わったとしても、生かしうるだろう。

なお、被災地において被災した工場をこのように転用する場合、地元住民を雇用することも考えられる。被災地では、雇用が今後の大きな問題となるため、こうした方法での雇用創出は重要だ。こうしたことを実現するには、介護に関する規制を緩和し、異業種からの参入が容易に行えるような改革が必要だ。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2011年7月16日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。写真と本文は関係ありません
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