台湾問題「現状維持」が大多数、その自然な理由 次の脅威は日本?見え隠れするアメリカの思惑

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白人至上主義の右翼が書いたらしい際物(きわもの)の本は無視できても、伝統ある『アトランティック・マンスリー』のジェームス・ファローズ記者が数ヵ月間日本に滞在して『日本封じ込め論』を書き、「日本からの輸入品に一律25%の課徴金をかけるべきだ」と唱えたのには、彼が日本滞在中に何度も話をしていたので驚いた。

また、保守派のシンクタンクのヘリテージ財団の研究員でマサチューセッツ工科大学とアメリカ陸軍戦略大学でも講座を持っていたジョージ・フリードマン教授が『カミング・ウォー・ウィズ・ジャパン(迫り来る日本との戦争)』と題する著書を出し、日米が第2次大戦で戦うに至った経緯と今日の詳細なデータを基礎に「今後また日本との戦争が発生する公算大」と説いて評判が高く、日本でも出版された。

ワシントンに行った際にフリードマン教授に電話すると「君の名は聞いている。会いたいと思っていた」とホテルに来てくれ2時間論議したが、あえて要約すると、彼の説は「アメリカと日本の経済的利益は衝突を免れない。アメリカがその強大な海軍力を経済的優位を確立するために使用しないことはまず考えられない」というもので、私は「その論理は分かるが選択肢はさまざまで結論には同意できない」と言って笑って別れた。

反日感情の煽りがもたらすもの

当時のアメリカでは「日本が経済成長したのは不正な貿易手段による」との論がメディアで流布され、欧州にも伝染。

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(実は軍事問題研究所)の客員研究員として招かれていた時、スウェーデン人の若手同僚が「日本のアンフェアな貿易慣行」と言うから、「どこがアンフェアなのか」と言うと「アメリカの雑誌にそう書いてありましたので」と謝ったこともあった。

アメリカで「日本人は異質」との報道が広まり反日感情が高まると、「日本にアメリカ軍が駐留して守ってやるのはおかしい」との論が出た。

以前から無駄な存在と言われていた沖縄の第3海兵師団は廃止されかねない状況になったから、師団長H・C・スタックポール少将は1990年3月27日付の『ワシントンポスト』紙のインタビューで「もしアメリカ軍が引き揚げれば日本は既に極めて強力になっている軍隊を一層強化するだろう。われわれは瓶の栓なのだ」と、対日警戒心を煽って部隊存続を図った。

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CIA(アメリカ中央情報局)もニューヨーク州のロチェスター工科大学に委託した『日本2000年』という研究報告(1991年5月刊)で「日本人は人種差別主義者で、社会は非民主的、世界の経済支配を狙っている」などと敵意をむき出しにした。政府機関がこんな意識を振りまくのは悪質だった。

私のところには「日本軍事力強化の危機」を書こうとするアメリカのジャーナリストや政治学者が訪れてきて、何とかその証拠を収集しようとした。その背後にはソ連軍が1988年5月にアフガニスタンから撤退を始め、89年11月にはベルリンの壁が壊されてソ連の脅威が消滅したため「次の脅威は日本だ」という意図が見えた。

国家安全保障の要諦はなるべく敵を作らないことにあると私は思うが、アメリカは50年以上ソ連と対峙し、朝鮮、ベトナムで戦い、その前にはドイツ、日本、スペイン、メキシコ、イギリス本国、カナダを領有していたフランス、先住民などと戦ってきただけに仮想敵がいないと気分が落ち着かないのか、と苦笑した。

前編:「百害あって一利なし」台湾有事は避けられるか

田岡 俊次 軍事評論家

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たおか しゅんじ / Taoka Syunji

1941年生まれ。早稲田大学卒業後、朝日新聞社入社。防衛庁担当。アメリカ・ジョージタウン大学戦略国際問題研究所主任研究員なども務めた。

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