机上の仕事だけでは途上国問題を解決できない
中村俊裕氏は、国連開発計画(UNDP)、マッキンゼーなどを経て、2009年国連在職中に米ニューヨークでNPO法人コペルニクを設立。12年には世界経済会議(ダボス会議)のヤング・グローバル・リーダーに選出されるなど世界で活躍する日本人の一人だ。
そんな中村氏が世界から注目される理由は、コペルニクの「シンプルなテクノロジーを必要としている人に届ける」方法にある。シンプルなテクノロジーとは、ソーラーライトや浄水器、調理用コンロなど「誰でも簡単に利用でき、安価で、壊れにくい製品」のことを指す。コペルニクはこうした製品を途上国の人々に届ける仕組みをつくることで、彼らの日々の生産性を向上させ、経済的自立を促すことを目指しているのだ。
コペルニクを設立するまで、中村氏は国連職員として世界中を飛び回っていた。たとえば、独立直後の東ティモールでは国づくりに関与。スマトラ島沖地震を機に参加したインドネシア事務所の復興チームでは、現地政府とともに災害復興にあたるなど、やりがいのある日々を送っていた。
心境の変化が起きたのは、インドネシアでの勤務を終え、西アフリカのシエラレオネに赴任したときだ。11年にわたる内戦を経たシエラレオネは、UNDPが発表する指標で「世界で最も貧しい国」といわれ、中村氏は大統領支援チームとして国家戦略に関与する重要な任務を担っていた。
「仕事は大統領のアドバイザー、国連機関、先進国から派遣された専門家と、さまざまな政策や重要プロジェクトを立案するというものでした。しかし、いくら戦略的な計画をつくっても、それが本当に実行されるかどうか大きな乖離がありました。実際に目にした現地の人々の生活と、首都にある政府の建物の中で書類をつくっている自分との距離感とは一体何なのだろうか。大きな戦略をつくるだけではなく、もっと具体的に人々の生活を変えることはできないか。そう考えたのです」
そのころ、海辺で魚を売っている女性たちに出会った。彼女たちは朝から魚を売っているのだが、昼ごろには腐ってしまう。そこで中村氏は女性たちに「クーラーボックスがあれば、魚の保存時間が延び、収入も上がる」とアドバイス。「皆で使い方を考えて」とボスの女性に5個ほど渡してみた。ところが、2週間経って行ってみると、使っていない。
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