誰も思いつかなかった仕組みで解決しよう

「世界を巻き込む」という方法

「ボスの女性が独り占めしていたのです。このとき、モノがあるだけではよくない。モノが人々にどのように届くのかというシステムを考えないとダメだなと思ったのです。そして大事なことは、具体的に見えるかたちで、今そこにある課題を解決していくことでした」

必要な人に届けることが最も大事で最も大変

そこで着目したのが途上国向けのシンプルなテクノロジーだった。たとえば、途上国では普段、薪で調理をしているため、女性はキッチンで過ごす時間が長くなり、薪も取りに行かなければならない。調理中に煙を吸い込んで死亡するケースも後を絶たないという。

そうした問題を「具体的に見えるかたち」で解決にするために必要だったのが、薪の燃焼効率を向上させる調理用コンロといったシンプルなテクノロジーだったのだ。しかも、ちょうどそのころ「途上国問題を解決するモノづくり」を目指すベンチャー企業が相次いで出始めていることも知った。

「ならば、そのテクノロジーを必要な人に届けるという仕組みをつくればいいのではないか。届けることに注目したのは、届いていないという大きな課題があったからです。ベンチャー企業から、途上国の課題を解決するようなテクノロジーが続々と生まれているのですが、ベンチャー企業と話しても届けることが一番大変だという。私はそこで最もテクノロジーを必要としているであろう遠隔地、つまり、“ラストマイル”に持っていくために、コペルニクをつくろうと思ったのです」

コペルニクが設立されたのは2009年。中村氏が妻と2人で立ち上げた。最初のプロジェクトは土地勘のあるインドネシア、東ティモールで行った。

中村俊裕(なかむら・としひろ) NPO法人コペルニク代表 1997年京都大学法学部卒業。英国ロンドン経済政治学院で比較政治学修士号取得。国連研究機関、マッキンゼー東京支社を経て、国連開発計画(UNDP)へ。2009年、国連在職中に米国でNPO法人コペルニクを設立。著書に『世界を巻き込む。――誰も思いつかなかった「しくみ」で問題を解決するコペルニクの挑戦』(ダイヤモンド社)

では、実際に製品をいかに届けたのか。一つの方策は売店だった。たとえば、インドネシアの農村部には、砂糖や水など日常的に必要なものを買える売店がたくさんある。この流通ネットワークを使って、製品を置いてもらうようにしたのだ。コペルニクでは、こうした売店を「テック・キオスク」と呼んでいるが、支援開始後、地元の関心を引き、テック・キオスクの売り上げが上がるなど、オーナーも利益を得る効果を生んでいる。

さらに、もう一つの方法が、コペルニクが指導した現地の女性たちに直接個別訪問してもらうというものだ。彼女たちは届けるだけでなく、実際に使い方を教えるという役目も担っている。結果、彼女たちはその仕事をすることで売り上げのマージンを得ることができる。

現在、インドネシアでのテック・キオスクは約80店。すべてコペルニクが地道に直接出向いて開拓したものだ。対象としている地域にキリスト教系の人々が多いため、コペルニクのスタッフが日曜礼拝で集まった人々に直接プレゼンテーションして、賛同者を募る方法などの施策もとっている。こうしたプロジェクトの拡がりとともに寄付金も増え、中村氏はインドネシアに本部を構える。スタッフも増えた。ちなみにコペルニクは東日本大震災でも、ソーラーライトや太陽光で再充電できる補聴器を提供するなど被災地支援を行っている。

ビジネス的なモデルでNPO活動を広げる

このように、コペルニクの最大のユニークさは、「テクノロジーを持つ企業や大学」「寄付を行う支援者」「NGOなどの現地コーディネーター」をマッチングする“ビジネスモデル”にある。それこそが「誰も思いつかなった仕組み」だ。コペルニクはプラットフォームとして、テクノロジーとそれを必要としているプロジェクトを紹介し、世界中から寄付を募り、途上国の貧困層の生活を助けている。その対象は全世界。文字通り「世界中を巻き込みながら」活動を行っているのである。これまでの支援先はインドネシアを中心に、東ティモール、ミャンマー、カンボジアなど対象エリアも拡大している。

そして現在、コペルニクの活動として増えているのが企業とのパートナーシップ。企業が主にCSR活動の観点から行っているプロジェクトに加え、新たなパートナーシップも生まれている。たとえば、ビジネスとして途上国向けのテクノロジーを開発しようとしている企業に対しては、企業向けのコンサルティング支援。製品開発のアイデア出しから、現地でのプロトタイプのヒアリング作業、さらにはコペルニクのプラットフォームを使って、実際の製品を現地に届けるところまで支援している。

「途上国問題に関心がある人でも本だけの情報に頼ることが多く、本当のニーズの“ニュアンス”はなかなかわかりません。現地に出向き、日々の生活を肌で感じてこそ、自分たちの技術で村の人々の生活を変えられるという実感を持てる。実際、その経験をもとに具体的なアイデアからプロトタイプにまで進んだケースも出てきています」

むろん日本企業だけでなく、海外の企業からも問い合わせが来ており、現在モンゴルの会社などが浄水装置の開発を進めている。またコペルニク自身で、新しいテクノロジーの開発を行ったり、世界銀行、UNDP、ユニセフなど政府系機関とパートナーシップを組んで、活動をさらに拡大させようとしている。

こうしたコペルニクの方法は、これまでのNPO活動とは趣を異にした支援モデルだと言えるだろう。そのポイントは、途上国向けテクノロジーを持つ企業と、それを本当に欲している人たちを結びつける“ビジネス的な支援モデル”にある。実はそこにこそ、これまでなかなか解決できなかった途上国問題を根本から解決させるヒントがあるのかもしれない。だからこそ中村氏は、現地のニーズに根ざしたシンプルなテクノロジーを世界中から発掘し、それを本当に必要としている人たちに届けようと日々挑戦を続けているのである。

ビジネスの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • コロナショックの大波紋
  • おとなたちには、わからない
  • 最強組織のつくり方
  • 岐路に立つ日本の財政
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
大手不動産がこぞって参戦<br>「シェアオフィス」ブームの内実

テレワークや働き方改革の浸透で存在感を高めているのが「シェアオフィス」です。大手から中小まで多数の参入が相次いでいますが、目的はさまざま。通常のオフィス賃貸と比べた収益性も事業者で濃淡があり、工夫が必要です。