高橋源一郎、「ぼくらの民主主義」に込めた思い

「民主主義」をタイトルにしたワケ

──朝日新聞の記事取り消しの時評のときは「おれ」でした。

高橋源一郎(たかはし・げんいちろう) ●1951年生まれ。横浜国立大学中退。81年『さようなら、ギャングたち』で群像新人長編小説賞優秀作、88年『優雅で感傷的な日本野球』で三島由紀夫賞、2002年『日本文学盛衰史』で伊藤整文学賞、12年『さよならクリストファー・ロビン』で谷崎潤一郎賞受賞。ほかに『官能小説家』など著書多数。

朝日新聞バッシングのときに、おれを使って「〈個人的な意見〉『愛国』の『作法』について」をタイトルにして書いた。大手メディアがヘイトスピーチをやっている異常事態に、本当にかちんときた。それはいくらなんでもないだろう、と。

実は、すぐに従軍慰安婦問題を取り上げると言ったら、朝日の人は、謝罪する一方でオピニオンの紙面ではいきなり反撃するのはやめたほうがいいと言う。しかし、こういうときに反撃しないとなめられる。朝日の人はいい人が多いが、けんかの仕方を知らない。ここはけんかをしないとなめられる、僕がやると。

書こうとした原稿は個人を名指しで批判したものだが、その原稿はボツにした。結局、言葉を引用した作家のスーザン・ソンタグに申し訳ないので、掲載された原稿はマイルドな表現になった。そういう意味では、どの時期にどういうことを書くか、大変といえば大変ではある。

「民主主義」をタイトルにしたワケ

──その内容は現代だけにとらわれず、時空を超えます。

どこかで事件が起きたときに、これを2400年近く前と比較すると、何かがわかる、とかね。たとえば民主主義の話をするとき、ソクラテスがいた時代に戻って考えてみる。その頃民主主義はまだ実験段階だった。今のようにすり切れてなく、また固まってもいない。特に選挙がない。投票、あるいは間接民主主義は、現実的な解決策としてひねり出された技術なのだ。民主主義の実践過程で共通化された考え方は、意見の違う人、あるいは違った考えの人が一緒にやっていこうということだった。

──この本のタイトルにも「民主主義」の語句があります。

この4年の時評を読み返してみて、テーマの多くが民主主義のさまざまな面の展開により起こっていることだった。小説は先にタイトルを決める。後から決めることは基本的にない。この本では14年5月の時評のタイトルを流用したが、こういうつけ方はすごくやりにくい。

──『ぼくらの民主主義なんだぜ』はもともと「もじり」とか。

ジャズ評論家のナット・ヘントフが『ぼくらの国なんだぜ』と題するジャズ小説を書いている。そのタイトルが好きで、ああいうタイトルのものを書きたいなと、実はキープしていた。民主主義の話が割と多くなってきたので、この本のタイトルはそれかなと思ってつけた。

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