高橋源一郎、「ぼくらの民主主義」に込めた思い

「民主主義」をタイトルにしたワケ

ヘントフの本にはこのほかにも『ペシャンコにされてもへこたれないぞ!』とか、好きな小説がいくつもある。白人の少年がジャズをやる。黒人の偉いミュージシャンのところに通い教えを請う。当初は「白人のチャラいおまえにジャズがわかるのか」と相手にされない。対立しても互いに引かず、最終的にはわかり合う。ヘントフの小説自体が民主主義の実現だが、普通に読んでも小説としてすごく面白い。米国は差別もひどいが、徹底的な話し合いもする。そこに米国民主主義の懐の深さみたいなものがある。

小説は人間のすべてを書き尽くすもの

──小説家が論壇時評を書く難しさはありますか。

日本の小説家は戦後しばらく政治や社会についてバンバン発言していた。それがある世代以降、はやらなくなった。しかし小説は、人間とは何かと考え、人間のすべてを解き尽くすものだ。小説家の仕事を世界のすべてについて書くことと考えると、評論を書くのも小説を書くのも一緒だと言っていい。もともと小説には全体小説という概念がある。ジャンルを問わないオールインワンで書き、社会評論とも分けない。

──むしろ向いている?

世界がどんどん複雑になっていき、同時にインターネットによって世界中があっという間につながる。膨大な情報が駆け巡る。専門家がいても結局、情報が多すぎて、世界の真実はわからない。もちろん専門の情報を知ることは大事だが、この際は、もっと俯瞰的に世界を眺めるような人が論壇時評を書いたほうがいい。小説家は細かいことをつっつくより、今世界はどうなっているのか、俯瞰するのが得意だ。

──この間、ご自身の小説は。

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書いていない。論壇時評は同時進行の歴史小説を書いているようなものだ。小説に使っている筋肉を論壇時評に使っている感じで、長編小説を二つ同時に書くのは難しい。

ただ、小説家として、そうも言っていられないので、強制的に小説を書き始める。6月末に叔父の亡くなったルソン島に行くのを契機に、戦争小説を一本書いてみようと思っている。論壇時評のスピンオフ小説をね。

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