冬に流行「ノロウイルス」陰性でも安心できない訳 アルコール手指消毒は「胃腸炎」には効果が薄い

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トイレから流れたノロウイルスは下水に流れ込み、下水処理を受ける。しかし完全にウイルスを除去することはできず、川を下って海に達する。

アサリ、ムール貝、帆立貝、牡蠣などの二枚貝は、海水に浮遊する植物プランクトンなどを海水ごと吸い込み、エラで漉し取って食べている。牡蠣1個が濾過する海水の量は1時間あたり約10リットルとされ、ノロウイルスの粒子が水中にあると、吸い込んで体内にウイルスを蓄積する。すべての二枚貝で同様の事は起きるのだが、牡蠣は生食されることが多いため、牡蠣を原因とする感染症が最も多く発生する。つまり、牡蠣を食べてノロウイルスによる食中毒になったということは、ウイルスが自然の中を巡る大きな環の一部に自分も参加した、ということなのだ。

しかし、飲食店にとっては大ごとだ。店に落ち度がなくとも、食品が病原体で汚染されていて、その病原体でお客さんが感染症を発病すれば、食中毒の扱いになるからだ。店としては神経質にならざるをえない。胃腸炎症状のある店員に対してウイルスの検査を求めるのも当然だ。

上記の背景があり、冬場は「会社からノロウイルスの検査をしてきてほしいと言われた」と受診する方が増える。

100個もあれば感染してしまうノロウイルスなのだから、検査の精度が相当高くなければウイルスを見逃してしまう。

残念ながら、最も感度の高いPCR検査ですら検体1mL中にウイルスが100個以上ないと検出できず、抗原検査キット(インフルエンザやコロナでも使われている、すぐ結果のでる検査)では、1mL中にウイルスが100万個以上ないと陽性の反応がでないのだ。検査で陰性でも感染源となりうることが理解いただけよう。

症状がなくなっても残るウイルス

胃腸炎になったあと、ほとんどの方は、3〜4日経って症状がある程度落ち着いたら仕事に戻られるのではないだろうか? コロナウイルス感染症ですら自宅療法が推奨されるのは5日間で、インフルエンザでの出席停止も5日間が目安だ。

ノロウイルスによる胃腸炎になった後、3週間経っても4人に1人はウイルスの排泄が続いているとの研究報告がある。また、まったく症状のない人でもウイルスに感染していることがある。症状のある人だけを休ませたり、検査で陰性を確認してもノロウイルス感染は防げないのだ。

結局は手洗いに尽きる。誰もが感染している前提で、食べ物に触る前にせっけんで手を洗う、汚染されている手で目や鼻、口を触らないという予防策を愚直に続けるしかないのだ。手洗いはインフルエンザやコロナウイルス感染症の予防にも有効だ。手洗いを励行して、残りの冬を健康に乗り切ってもらいたい。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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