「旧ジャニーズ」2回の記者会見に共通する失敗 危機管理における説明責任は「被害者目線」

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本来なら、最重要ステークホルダーを被害者と定め、被害者救済と社名変更、廃業発表までとし、新会社の体制は別途改めて発表とすれば、会見の中身は被害者の救済や補償に質問を集中させることができたはずです。しかし、新社長・副社長の発表までしてしまったため、質問が新会社まで広がり、救済内容も新会社内容も中途半端になり質問が深まりませんでした。補償や救済の組み立て方を聞きたい記者にも、新会社について聞きたい記者にもストレスがたまり、不規則発言も多くなり、結果として中途半端な印象を残してしまったのです。

なぜこんなことが起きてしまったのか。それはこれらの会見の目的が、新しい体制になったことをなるべく早く取引先に見せたい、といった思惑があったためではないでしょうか。

平時であれば売り上げに直結する取引先は最重要ステークホルダーですが、危機発生時の最重要ステークホルダーは被害者であるとする危機管理広報の鉄則が頭からすっぽり抜け落ちていたのです。彼らにとって未来に必要なのは被害者ではなく取引先だからだとする考え方が見え見えです。被害者はコストであり、マイナス要素だとする発想は、ジャニーズに限らず経営者が陥りやすい心理であって、これはコントロールされるべき表現リスクです。

危機管理における情報公開、説明責任は「被害者目線」

危機発生時にダメージを最小限にするための説明責任は「クライシス・コミュニケーション(危機管理広報)」と言われています。平時におけるブランディングやマーケティング活動と同じ発想で情報発信をするとダメージを深めてしまいます。そうならないようにするために実務家によって整理されてきた鉄則があります。鉄則はさまざまあり、筆者も以前は7つの鉄則でまとめていましたが、現場では7つ思い出すのもストレスになると判断し、現在は3つの初動を提唱しています。

一つめが「ステークホルダーの洗い出しと優先順位」です。経営者視点から考えると、旧ジャニーズ事務所の場合、被害者、現役タレント、取引先、報道関係者、ファン、といった方々がステークホルダーになるでしょう。昨年4月のカウアン・オカモト氏による記者会見の後、具体的行動が始まりましたが、当初から取引先が最重要ステークホルダーとして位置づけられていたと思われます。

最初の公式行動は、取引先への見解書配布であり、5月の会社での公式コメントも「被害者に向き合わないと、私たちに未来はない」と、自分たちの未来のために被害者に向き合う宣言をしています。第三者委員会の名称も「再発防止特別チーム」と命名し、事実認定をすっとばして再発防止策を立てようとする印象を与えました。1回目と2回目の会見も謝罪と新社長発表、廃業と新会社設立発表、といった組み合わせで、最重要ステークホルダーがわかりにくくなってしまいました。

危機発生時には、つい自分たちが被害者に見えてきてしまいます。これはある種の自己防衛本能であり、生きるために必要ではありますが、それをコントロールする力が必要です。危機発生時には「被害者は誰なのか」「最重要ステークホルダーは誰なのか」の軸を立て、そして二つめのポイントである「方針」を打ち立て、何を伝えるのかを決めなくてはなりません。

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