四重苦のロシア、「宇宙計画」で中国と協力拡大へ 中露の情勢不安定化が宇宙における冷戦へ結びつく

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2015年に公表された国防白書「中国の軍事戦略」では、「天空一体」「攻防兼備」の空軍建設が目標として掲げられ、作戦戦術面でも大きな変化が起きています。

PLAは、空軍力と衛星システムの統合一体化を推進して、人工衛星による支援で軍事作戦の適用範囲を遠方に拡大すること、そして、機動力を用いたダイナミックな戦い方を目指しています。同年12月には、中央軍事委員会の直轄部隊として戦略支援部隊(SSF)が新編され、宇宙における戦闘、衛星の打ち上げ、人工衛星の取得と運用の管理など、PLAを新たな領域から支援する態勢が整備されつつあります。

このように、PLAがサイバー空間だけでなく、宇宙空間における情報の優勢を確保し、宇宙空間を含む統合作戦を実施する準備が着々と進んでいきます。

中国が高い技術力を必要とする宇宙の軍事利用を加速できる背景には、国家規模で推進する「軍民融合(MCF)」戦略の存在が認められます。MCFは、民間と軍事の技術分野の境界線を意図的に曖昧なものとして、中国の民生部門のイノベーションとリソースを、PLAの要請に応じて利用できるようにすることを目的としています。

このMCFの流れの中で、中国は経済大国と軍事大国を同時に実現することを目指して、商業宇宙分野でも積極的な取り組みを始めています。

2014年、中国政府は商業打ち上げ会社の設立を発表し、さらに技術的な制限の撤廃を解除して、宇宙の商業市場への投資を開始しています。ここから、宇宙産業の振興のみならず、宇宙関連部品のサプライチェーンの面でも、中国の経済の主導性を確保しつつ、国際的な競争力を増大させようという、中国政府の深謀遠慮がうかがわれます。

中国の宇宙ステーションにロシア人は入らない?

現在も、中国とロシアは世界屈指の宇宙大国ですが、これまでの各々の発展の経緯を踏まえれば、将来、宇宙という領域では両国の関係が変わっていく可能性があります。

中国は、初期の民生・商用宇宙計画では、ロシアから中国人宇宙飛行士の訓練や衛星ロケットの打ち上げなどの技術的支援を必要としましたが、国家一丸となって独力での研究開発を続けた結果、宇宙ステーションの建設(2022年)、月や火星の探査(2020年に月探査機嫦娥5号が月面の岩石や土壌を持ち帰り、月面探査車「玉兎2号」を稼働中です。

2020~21年、火星探査機天問1号の打ち上げ・着陸に成功)、測位衛星システム(GPS)、リモートセンシング、大積載量ロケットの研究、開発、装備化を実現しロシアを圧倒するまでに成長しました。このような中国の宇宙空間での存在感の高まりを見て、西側諸国の宇宙関係者の多くは、振り返れば中国との宇宙協力に対して大きな期待を抱いたことでしょう。

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