四重苦のロシア、「宇宙計画」で中国と協力拡大へ 中露の情勢不安定化が宇宙における冷戦へ結びつく

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当時公開された、宇宙を舞台にしたハリウッド映画『ゼロ・グラビティ』(2013年)や『オデッセイ』(2015年)では、ピンチに陥ったアメリカ人宇宙飛行士を中国が助けるというストーリーが好意的に受け止められたのは、その証拠です。

しかし中国が、国内の少数民族への対応を契機に、人権や自由を巡って西側諸国との軋轢を表面化させ、2014年のクリミア併合を契機として急速にロシアと西側諸国との関係が悪化する中で、皮肉にも中露間の宇宙の知財協力が進むことになっています。

特にGPSシステムに関して、ロシアのGLONASと中国の北斗システムとの補完性を高める動きは、民生分野の協力のみならず、軍事的な偵察や高精度兵器の誘導における相互支援につながっていく可能性は高いです。

中国とロシアのこれから

そして、2022年2月のウクライナ侵攻直前の首脳会談において確認された「制限のない」パートナーシップをトリガーとして、中露両国の宇宙協力が、月面や深宇宙の探査、衛星システムの協力、宇宙ゴミ(スペースデブリ)の調査などへと拡大していくことも間違いないはずです。

しかしこのように、両国が宇宙協力を排他的かつ相互補完的に強化することは、西側諸国にとって、宇宙空間が競争と対立の領域として二極化して、その状態が固定化することへの懸念を招きます。将来、このような中露を巡る国際情勢の不安定化が、宇宙空間の安定性にも大きな影響を与え、新たな宇宙における冷戦へと結びつくかもしれません。

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その一方で、中露両国はお互いを不可逆なパートナーと認め合うものの、宇宙協力では順風満帆とはいかないでしょう。

中国は、2022年に自前の宇宙ステーション「天宮」を完成させ、実証実験を始めました。しかし、今後、国際宇宙ステーションから脱退して独自開発に向かうと見られるロシアとは、宇宙ステーション運用に関する協力を実現するつもりはないようです。

それは、両国の政治、文化、技術的国益といった目に見えない障壁によって、中国が天宮にロシア人宇宙飛行士を迎え入れることに消極的な姿勢を示しているからです。

今後中露両国は、お互いの利益を最大限に考慮しつつ、宇宙に関する連携や協力を個別に検討したうえで、慎重かつ選択的に実現していくことが妥当なシナリオと考えられます。

長島 純 在ブルキナファソ日本国特命全権大使 兼 中曽根平和研究所 研究顧問

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ながしま・じゅん / Jun Nagashima

元航空自衛隊空将。1984年防衛大学校卒業。ベルギー防衛駐在官、国家安全保障局審議官、空自幹部学校長を歴任。欧州、宇宙、先端技術などの安全保障問題に詳しい。共著に『新領域安全保障』などがある。

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