都市部でも深刻化「買い物弱者」をどう救うか? セーフティネットとしての買い物を考える

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だが、課題もある。医療MaaSに関する病院側との日程調整や、オンライン診療における診療報酬が通常診療より低いことなどだ。

そのため、医療MaaSと「おでかけま〜す」とは一旦、切り離して考えることになった。医療MaaSは、大分県商工観光労働部先端技術挑戦課による実証実験だ。

医療MaaSの実証実験に使われたハイエースグランドキャニオン(筆者撮影)
医療MaaSの実証実験に使われたハイエースグランドキャビン(写真:豊後大野市)

移動販売についても、事業者の収支面で継続的に行うことの難しさがある。結果的に、第2弾では簡易な方法での遠隔での買い物と実店舗での買い物支援という、買い物弱者への対策が主体となったというわけだ。

では、なぜ豊後大野市は「おでかけま〜す」という、官学連携の交通利用促進事業を行うに至ったのか。その背景には、同市がこれまで進めてきた交通に関する取り組みの変化がある。

10年前の高齢者と今の高齢者は違う

1960年代半ばに時計の針を戻すと、この地域での基礎自治体が、九州でいち早く過疎地での交通手段について検討していた。その後、大野郡5町2村が合併した現在の豊後大野市になってからも、地域交通への対策を重視してきたという経緯がある。

現在、市内を走るコミュニティバスは20台あり、そのうち15台をスクールバスと兼用としている。車両は市が所有し、自家用有償旅客運送を用いて運用を地元の交通事業者に委託している形だ。ドライバーは二種免許所持者が担うが、今後はドライバー不足へのさまざまな対応が必須だという。

「おでかけま~す」の基点となる土師公民館(筆者撮影)
「おでかけま~す」の基点となる土師公民館(写真:豊後大野市)

コミュニティバスの仕組みについても、そろそろ見直す時期ではないかという感触を市では持っている。「10年ほど前までは、高齢者でも自宅近くの停留所まで歩けていたが、最近はそれも難しい人が増えてきた」(まちづくり推進課)という状況だからだ。

こうした厳しい社会状況に直面すると、一般的に基礎自治体では地域住民がドライバーをする自家用有償旅客運送、また利用者の自宅まで効率的な運行を行う、AI(人工知能)オンデマンド交通などが検討されることがある。

大野豊後市の場合、そうした中で2013年から大分大学大井研究室と連携した集落調査を実施し、定常的にさまざまな社会実証を始めたのだ。

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