福島原発事故における被ばく対策の問題・現況を憂う--西尾正道・北海道がんセンター院長(放射線治療科)


 放射線に対する防護服などはない。安全神話の一つとして、ヨード剤を放射線防護剤と称して、あたかも放射線を防護できるような言葉を使用してきたが、防護服も同様な意味で名称詐欺である。
 
 着用すれば、塵状・ガス状の放射性物質が直接皮膚に接触しないだけであり、防護している訳ではない。
 
 防護服を着たまま寝るよりは、通常の衣服を厚めに来て皮膚面を覆うことが重要であり、毎日新しいものに着替えたほうがよほど被ばく線量は少なくなる。放射線防護の基本的なイロハも理解していない対応である。
 
 また通常は1万3000cpm(4000ベクレル[Bq]q/平方メートル)以上を除染対象としていたが、入浴もできない環境下で、いつのまにか除染基準を10万cpmとした。1万3000cpmの基準では全員が除染対象となるからであろう。
 
 作業当日の被ばくからの回復には高栄養と安静が最も重要なことであるが、プライバシーも無い体育館のような免震重要棟に閉じ込めておくのは、逃げられないためなのであろうかと疑いたくなる。30分もバスで走れば、観光客が激減して空いているホテルで静養できるはずである。

被ばく線量のチェックでは、ポケツト線量計も持たせず、またアラームが鳴らない故障した線量計を渡すなど、下請・孫請け作業員の無知に付け込んだ信じられない東電の対応である。さらに作業中のみ線量計は持たされても、それ以外は個人線量計も持たせていないのは論外である。
 
 寝食している場所も決して正常範囲の空間線量率の場所ではないのである。被ばく線量を過小評価してできるだけ働かそうという意図が見え見えである。



 また放射性物質が飛散した環境下では最も重要な内部被ばくもホールボディカウンタで把握し加算すべきである。これでもγ線の把握だけなのである。

原発周辺の作業地域は中性子線もあるであろうし、プルトニウムからのアルファ線もストロンチウムからのベータ線も出ているであろう。線質の違いにより測定する計測器や測定方法が異なるため、煩雑で手間暇がかかるとしても内部被ばくの把握は最も重要なことである。
 
 インターネット上の作業員の証言では通常よりは2桁内部被ばく線量も多くなっているという。このような対応の改善が無ければ、まさに「静かなる殺人」行為が行われていると言わざるを得ない。
 
 5月24日には1~3号機の全てで原発がメルトダウン(炉心溶融)の状態であることが発表されたが、γ線のエネルギーを調べればコバルト60も放出されていたはずである。

ウランの崩壊系列からは出ないコバルト60の検出は、燃料ペレットの被覆管の金属からの放出であり、メルトダウンしていることは想像できたことである。

今後は膨大なマンパワーで被ばくを分散して収拾するしかない。そのためには多くの作業員を雇用して、原発建屋や配管などの詳細な設計図や作業工程を熟知させて作業に当たる必要がある。しかしその準備の気配もない。
 
 現在は5000人前後の人達が原発の収拾に携わっているらしいが、作業員の線量限度を守るとすれば、100倍、1000倍の作業員が必要となる可能性がある。不謹慎であるが、低迷する日本経済の中で、皮肉にも被ばくを代償とした超大型雇用対策となった。

3号機はMOX燃料であり、γ線の20倍も強い毒性を持つα線を出す半減期2万4000年のプルトニウム239も出ている作業環境である。γ線の測定だけでは作業員の健康被害は拡大する心配がある。
 
 揮発性の高い核種であるセシウムやヨウ素は遠くまで飛散するが、事故現場周辺はウランや中性子線もあるであろうし、被覆材からのコバルト60も出ている。6月4日の報道では1号機周囲で4000ミリシーベルト/時が測定されており、人間が近づける場所ではなくなっている。

作業員に対して事前に造血幹細胞採取を行い、骨髄死の可能性を極力避ける工夫も提案されたが、原子力安全委員会や日本学術会議からは不要との見解が出され、事の深刻さを理解していないようだ。

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