「デジタルの先」の中心テーマ「自然資本」とは何か 「気候変動」問題以上に深刻な「生態系の危機」

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そのうえで、デイリーは次のように議論を進める。すなわち「世界は、人工資本が限定要因であった時代から、残された自然資本が限定要因になる時代へと移行しつつある。漁獲生産を現在制限しているのは残されている魚の個体群であって、漁船の数ではない。木材生産を制限しているのは残されている森林であって、製材所ではない。……われわれは、自然資本が相対的に豊かで、人口資本(と人間)が少ない世界から、後者が相対的に豊かで、前者が少ない世界に移行した」(『持続可能な発展の経済学』、強調原著者)。

つまり「世界における希少性のパターン」が変わったのであり、以前であれば「人工資本の収益を最大にし、人工資本に投資する」ことが経済の論理として求められたが、現在では人工資本は十分あり、逆に自然資本こそが不足してきているのだから、「われわれは今や自然資本の収益を最大にし、自然資本に投資しなければならない」(前掲書、強調引用者)ということになる。

これはある意味非常にわかりやすい内容であり、こうしたデイリーの議論は、あくまで“経済合理性”に依拠しつつ、経済のロジックからしても「自然資本」を重視することが求められること――逆に言えば、自然資本を重視しないような経済は皮肉にも経済そのものの破綻を招くこと――を説いている点で、シューマッハーの議論よりも現実的な説得力を持つと言えるかもしれない。

ハーマン・デイリーのピラミッド

ちなみにデイリーは、地球環境問題の解決のために優れた研究を行った人に与えられる「ブループラネット賞」を2014年に受賞しているが、その受賞インタビューにおいて“ハーマン・デイリーのピラミッド”とも呼ばれる枠組みを提示している。

この枠組みは、昨今関心の高い「ウェルビーイング(ないし幸福)」のテーマを「自然資本」や「持続可能性」と関連づけて示している点が興味深い(ただし、人間の幸福が最終目的で自然資本は究極の手段<meansとなっている点はいささか“人間中心主義的”な印象も残る)。

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