「デジタルの先」の中心テーマ「自然資本」とは何か 「気候変動」問題以上に深刻な「生態系の危機」

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先ほど、森林の減少など生態系の劣化が新型コロナ・パンデミックの背景にあり、それは生態系の危機が人間の健康や生命の危機に至ったことを意味すると述べたが、シューマッハーはこうした点をすでに洞察していたとも言えるだろう(ちなみに以上のようなシューマッハーの考え方はイギリスに拠点を置く「ニューエコノミックス財団」や「シューマッハーカレッジ」において継承され展開している)。

ハーマン・デイリーとエコロジー経済学

シューマッハーと並び、もっとも早い時期から「自然資本」の考え方を明確な形で提起した人物として、定常経済論(steady-state economy)で知られ、また「エコロジー経済学(ecological economics)」の体系化に努めたアメリカの経済学者であるハーマン・デイリー(1938-2022)が挙げられる。

エコロジー経済学と、“主流”の(新古典派的な)経済学とのもっとも大きな相違は次の点にある。すなわち後者が「市場経済」から出発し、さまざまな環境問題をいわゆる「外部性」の問題としてとらえるのに対し、デイリーが唱えるエコロジー経済学は、むしろ最初にあるのは「自然」であり市場経済はその一部分にすぎないととらえるのであり、ここには根本的な世界観ないし自然観の(“真逆”とも言える)違いがあると言える。

読者は、以上のような「自然」と「市場経済」に関する理解が、先ほどのシューマッハーの議論と同型のものであることに気づくだろう。思えば、シューマッハーの『スモール・イズ・ビューティフル』が刊行されたのは先述のように1973年であり、デイリーの最初の編著書である『定常状態の経済学に向けて(Toward a Steady-state Economy)』が刊行されたのも同じ1973年である。

昨今の「自然資本」や生態系保全への関心の高まりを見ると、ある意味で、「自然資本」をめぐる以上のような先駆的議論に、ようやく現実世界の動きが追いついてきているととらえてもよいかもしれない。

さてデイリーは「自然資本への投資のシフト」という興味深いアイデアを提起している。これはどういうことかと言うと、まず彼は基本認識として、「資本を減耗させずに維持するという条件は人工資本にのみ適用されてきた。というのは、過去においては自然資本が希少ではなかったので、それは捨象されたからだ」と述べる。ここまでは先ほどのシューマッハーと同様の認識と言える。

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