「デジタルの先」の中心テーマ「自然資本」とは何か 「気候変動」問題以上に深刻な「生態系の危機」

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昨年3月策定の上記「生物多様性国家戦略」では、前年12月に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」でも提示された「ネイチャーポジティブ」というコンセプトが戦略の重要な柱に位置づけられた。「ネイチャーポジティブ」にはさしあたり「自然再興」という訳語があてられているが、要は「自然」あるいは生態系がもつ積極的な価値を新たな視点で再評価していこうという趣旨のものだ。

また、これも3年半ほどにわたって委員として参加する機会があったのだが、国土審議会での議論を踏まえて昨年7月に閣議決定された「第三次国土形成計画」においても、「自然資本」や「グリーン国土」といった言葉ないしコンセプトが重要な理念として掲げられた。国土計画あるいは国土交通というと一般には社会インフラないし「人工資本」、“開発”といったイメージがなお強いが、そうした文脈でも「自然資本」や生態系の保全というテーマが重要な意味をもつようになっているわけである。

露わになった「生物多様性や生態系の危機」

ではこのように「ネイチャーポジティブ」「自然資本」といった概念とともに、生物多様性や生態系をめぐるテーマへの関心が近年特に高まっている背景は何か。

端的に言えば、地球の生態系が危機的な状況に陥っていることが基本にあると言えるだろう。

たとえば、スウェーデンの研究者ヨハン・ロックストロームらが2009年に公表し、現在では広く認知されるに至っている「プラネタリー・バウンダリー」の研究では、地球環境に関わる9つの領域が抽出され各領域の現在の地球の状況が定量的に示されているが、その危機の度合いがもっとも大きく“赤信号”になっているのは「遺伝的多様性」と「(窒素やリンの)生化学的フロー」である。つまり生物多様性や生態系に関する状況が、(気候変動やオゾン層破壊などよりも)深刻なものになっているのである。

この場合、「生物多様性や生態系の危機」といってもなかなか実感がわかないという人も多いと思われるが、実はこのことを私たちにもっとも明瞭な形で突きつけたのは、他でもなく2020年からの新型コロナ・パンデミックだったと言えるだろう。

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