「デジタルの先」の中心テーマ「自然資本」とは何か 「気候変動」問題以上に深刻な「生態系の危機」
ここで「生態系の危機」と「新型コロナ」という二者はにわかには結びつかないかもしれないが、新型コロナを含む「人獣共通感染症」(人と動物に共通の感染症)が近時増加していることの背景には、実は森林の減少が要因として働いていることが近年の研究によって示されるようになった。要するに、森林が減少することでウイルスを保有する動物の密度が増加し、さらにそれがいわば森林から溢れ出し人間に感染してパンデミックに至るということだ。
実際、国連の機関である国連環境計画(UNEP)は、2020年に出した文書において、「人獣共通感染症が発生する原動力となるのは、たいていの場合人間活動の結果として生まれる、環境の変化である」と指摘している(“Six Nature Facts related to Coronaviruses”)。さらに同機関は、『次のパンデミックを防ぐ――人獣共通感染症そしていかに伝播の連鎖を断ち切るか』という詳細な報告書を公表し、生物多様性ないし生態系の危機と新型コロナとの関連性や対応のあり方についてさまざまな角度から論じているのである。
新型コロナはすでに収束した“過去”の出来事のように思われているが、同感染症による死者は世界全体で実に696万人に達した(2023年12月26日時点。最大はアメリカの119万人で、ブラジル、インドが続く)。
人獣共通感染症の増加に関する上記のような認識を踏まえれば、それは“生態系あるいは生物多様性の危機が「人間の健康と生命」にまで影響を及ぼすに至った”ことを意味している。
しかも、新型コロナの背景に森林減少などの生態系の劣化があるとすれば、生態系や生物多様性をめぐる状況が改善されない限り、(あまりそうは考えたくないが)新型コロナのようなパンデミックは今後も繰り返し起こることになる。言い換えれば、「リスク管理」あるいはリスクの未然防止という観点からも、生態系の保全そして「自然資本」の重要性というテーマが浮上しているのである。
「自然資本」というコンセプトはいつ生まれたのか
以上のように生態系や生物多様性への関心の高まりの中で、「自然資本」というテーマがさまざまな形で論じられるに至っているわけだが、ではこうした「自然資本」という考え方はいつ頃から唱えられるようになったのか。
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