日本人が知らない台湾の選挙の底層にあるもの 台湾選挙のリアル(最終回)、「地方派閥」と「政治家族」

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柯文哲陣営が得意な空中作戦(台湾選挙のリアル②参照)が中高年層の支持を得るには限界があるとしても、「若い有権者を過小評価しているのではないか」と民衆党内で指摘されている。

若い層のほとんどが携帯電話をよく利用しているが、世論調査の中では一般電話の番号からサンプルを抽出しているため、実は若い層の動向を把握できていないのではないかという話だ。

また携帯電話をサンプルにしている調査でも、その抽出方法に慣れておらず、柯文哲への支持度がデータとしてきちんと出ていないと懐疑的な声もある。これが、民衆党陣営が「投票を放棄せず、選挙戦を終えよう」と訴えている根拠にもなっている。

前出の王教授は、「依然として20%の有権者が誰に投票するか決めていない。この20%の大半が若者だと信じている。投票日まで、各陣営がネット上での選挙戦で彼らに支持を訴えるだろう」とみている。

「与小野大」民進党陣営の危機感

総統選挙が接戦を繰り広げている中、同日実施される立法委員選挙では、与党・民進党が大きな危機に直面している。

現在、立法院の定数113のうち、民進党は過半数となる61、国民党は37、民衆党は5議席を占めている。しかし、今回は民進党が10~15議席ほど減らし、どの政党も過半数に至らず、ひいては「与小野大」に陥るとの予測が支配的だ。

2012年に実施された総統と立法委員選挙から2つの選挙が同日実施になってから、ある政党の候補者が総統に当選すると、その候補者の党が立法院でも過半数を獲得できた。

これは、同日選となったため、有権者は投票すべき3票(総統、立法院地方区、比例代表)を同じ政党・候補者に与える「一致投票」がなされがちだと研究者らは見てきた。だが、このような現象はすでになくなっている兆しも見えている。

「総統選と立法委員選挙では、得票率に差が出るだろう」と国立台湾大学政治学科の王業立教授(写真・王教授のフェイスブックより)

2020年実施の選挙では蔡英文が57%の得票率で圧勝したが、立法委員の比例代表では民進党が34%、国民党が33.3%とそれほど差がなく、有権者の「分裂投票」が見られた。今回は民進党と国民党の得票率がほぼ拮抗し、国民党が地方区でより多くの議席を得ると予想されている。

これについて王教授は、次のように説明する。

「総統選は政治理念と方向性に対する選択、立法委員は地方の懸案処理と政権への牽制機能を持たせるという考えが重なり合うため、双方の選挙に大きな関係性はない。今回も総統選と総選挙では、ある程度の得票率の差が生じるだろう」

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