(アメリカでは)航空事故が起こると、航空会社とは独立した調査機関、パイロット組合、さらに監督行政機関が、事故機の残骸やその他さまざまな証拠をくまなく調査する。事故の調査結果を民事訴訟で証拠として採用することは法的に禁じられているため、当事者としてもありのままを語りやすい。こうした背景も、情報開示性を高めている一因だ。
調査終了後、報告書は一般公開される。報告書には勧告が記載され、航空会社にはそれを履行する責任が発生する。事故は、決して当事者のクルーや航空会社、もしくはその国だけの問題として受け止められるのではない。
その証拠に、世界中のパイロットは自由に報告書にアクセスし失敗から学ぶことを許されている。かつてアメリカ第32代大統領夫人、エレノア・ルーズベルトはこう言った。「人の失敗から学びましょう。自分で全部経験するには、人生は短すぎます」
「ミスの報告」を処罰しない
学習の原動力になるのは事故だけではない。「小さなミス」も同様だ。パイロットはニアミスを起こすと報告書を提出するが、10日以内に提出すれば処罰されない決まりになっている。
また、現在航空機の多くには、設定した高度などを逸脱すると自動的にエラーレポートを送信するデータシステムが装備されている。データからは、操縦士が特定されない仕組みだ。
例を挙げよう。2005年、ケンタッキー州のある空港近辺で、複数の航空機から次々とエラーレポートが送信された。滑走路までのアプローチに問題が発生していたのだ。当時、空港のすぐ外側の空き地には、地元の自治体が設置したばかりの巨大な壁画があり、その上部には夜間用のライトがついていた。
このライトがパイロットを混乱させた。壁画のライトを滑走路のライトと見誤り、進入高度を間違えていたのだ。幸い事故には至っていなかったが、匿名のエラーレポートのおかげで、死亡事故が出る前に潜在的な問題が明らかになった。
その後すぐ、この空港に着陸予定の全機体に壁画ランプへの注意が促された。そして数日後には壁画もランプも撤去された。
今日の航空システムはさらに進化している。大手航空会社の多くは、何万ものパラメータ(高度逸脱、機体の傾斜過剰などに関する情報)をリアルタイムで継続的にモニタリングし、事故発生につながりかねない危険なパターンを見極めている。
これについて英国王立航空協会は、「航空安全を劇的に改善する最も重要な方法」だと評価した。いずれ全データが中央集中データベースに送信されるようになれば、将来的にはブラックボックスすら不要になるだろう。
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