羽田事故のあと話題『失敗の科学』が伝えること 航空業界が失敗から学ぶ文化を持つのはなぜか

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そのときも、航空業界の失敗を真摯に受け止める文化は変わらないはずだ。いつだってクルーたちは何も恐れずに失敗を認めることができる。それが価値あることだと認識しているからだ。

こうした航空業界の文化はユナイテッド航空173便の一件でも機能した。事故のあと数分以内に、アメリカ国家運輸安全委員会によって調査チームが任命され、翌朝にはオレゴン州ポートランドの事故現場で徹底的な調査が行われたのだ。

調査員がさまざまな証拠を検証してみると、事故が起きやすい「パターン」が表れた。こうした事実は、独立した機関による調査で初めて明らかになる。当事者の視点でしかものを見ていないと、潜在的な問題に誰も気づかない。失敗は調査されなければ失敗と認識されない。たとえ自分では薄々わかっていたとしても、だ。

1979年6月に公開された173便の事故報告書は、航空業界に大きな転機をもたらした。報告書の13ページには、この種のレポートらしい無機質な表現で次のように書かれている。

全運航審査官に告知を発行し、各担当航空会社に対して以下を命じるよう勧告する。乗務員がコックピット・リソース・マネジメント(チームワークを重視したリスク管理訓練)の原則に習熟するよう処置を講ずること。ことに機長は参加型管理の技術、その他のコックピットクルーは主張の技術を習得することが望まれる。

設計が不十分なシステムがもたらす人的ミス

数週間のうちに、NASAも専門家を招集し、この新たな訓練法を正式に検討し始めた。コックピット・リソース・マネジメントは、現在では「クルー・リソース・マネジメント(CRM)」と呼ばれる。CRM訓練の焦点は、クルー間の効果的なコミュニケーションだ。

副操縦士など、機長の補佐的立場にあるクルーは、上司に自分の意見を主張するための手順を学ぶ。その際にヒントとなるのが「PACE」だ。これは各手順の頭文字で、それぞれ「Probe(確認・探求)」「Alert(注意喚起)」「Challenge(挑戦)」「Emergency(緊急事態)」を指す。

一方、権威的立場にある機長は、部下の主張に耳を傾けることを学び、明確な指示を出す技術も磨く。時間の感覚が失われる問題については、責任の分担をシステムに組み込んで対処する。

「チェックリスト」は、当時すでに導入されていたが、さらに強化・改善された。このチェックリストは、上下関係を比較的フラットにする役割も果たす。機長と副操縦士が協力し合いながらチェックリストの項目を点検する作業は、コミュニケーションを活性化し、チームワークを生む。チームワークが機能すれば、緊急事態においても部下は意見を言いやすい。

失敗の科学
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こうした新たな訓練方法には、さまざまなアイデアが加えられ、即座にフライトシミュレーターなどを使って模擬実験された。厳しい条件下で慎重に検証され最も効果を上げたアイデアは、さっそく世界中の航空機に導入された。こうした改革により、173便の事故をはじめとする1970年代の一連の惨事のあと、航空事故率は下がり始めた。

航空安全専門家のショーン・プルチニッキは言う。

「今でもユナイテッド航空173便の事故は航空業界の分岐点だと言われています。『ヒューマンエラー(人的ミス)』の多くは設計が不十分なシステムによって引き起こされるという事実を理解した瞬間から、業界の考え方が変わったんです

173便の事故では10名が亡くなったが、その結果得た学習機会によって、より多くの人々の命が救われた。

マシュー・サイド コラムニスト、ライター

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ましゅー・さいど / Matthew Syed

1970年生まれ。イギリス『タイムズ』紙の第1級コラムニスト、ライター。オックスフォード大学哲学政治経済学部(PPE)を首席で卒業後、卓球選手として活躍し10年近くイングランド1位の座を守った。英国放送協会(BBC)「ニュースナイト」のほか、CNNインターナショナルやBBCワールドサービスでリポーターやコメンテーターなども務める。

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