羽田事故のあと話題『失敗の科学』が伝えること 航空業界が失敗から学ぶ文化を持つのはなぜか

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乗客たちは驚いて周りを見回し、クルーも不安を隠せない。ランディング・ギアはきちんと定位置にロックされたのか? あの大きな音はなんだったんだ? ギアがロックされると点灯するはずのインジケーター・ランプがひとつだけ点いていないのはどういうことだ?

機長は管制に無線連絡して、「問題を確認するまで飛行時間を延長したい」と要請した。173便は管制の指示通り空港南方へ向かい、ポートランド郊外上空で旋回しながら、さまざまな手を尽くし確認に努めた。そしてすべての状況から考えて、車輪は正しくロックされていると思われた。

しかし機長は確信が持てず心配で、頭の中で必死に解決方法を探し続けた。彼には乗客とクルーを守る責任がある。胴体着陸を敢行して乗客を危険に晒すわけにはいかない。どうしても、車輪が出ていることの確証がほしかった。

だがその間、どんどん燃料は減っていく。燃料の警告灯が点滅しはじめたが機長は反応せず、車輪の問題にこだわり続けていた。航空機関士の指摘に対し、機長はタンクにまだ「15分」分の燃料が残っているはずだと主張した。「15分!?」、航空機関士は驚いて聞き返した。「そんなに持ちません……15分も猶予はありません」。機長は残りの燃料を誤認していた。時間の感覚を失っていたのだ。

副操縦士と航空機関士は、なぜ機長が着陸しようとしないのか理解できなかった。今は燃料不足が一番の脅威のはずだ。車輪はもはや問題ではない。しかし権限を持っているのは機長だ。彼は上司であり、最も経験を積んでいる。

実はこのとき、173便は安全に着陸できる状態だった。のちの調査で、車輪は正しく下りてロックされていたことが判明している。もしそうでなかったとしても、ベテランのパイロットなら1人の死者も出さずに胴体着陸できたはずだった。

結果、173便は滑走路まで約12キロメートルの地点で、燃料不足によりエンジンが停止。ポートランド郊外に墜落し、乗客8名と乗員2名が亡くなった。

失敗を「データの山」ととらえる

航空安全対策の転機となったこの事故。原因を探れば、ほかの業界で起きた事故にも共通する点はあるが、肝心なのは類似点ではなく相違点だ。

最も大きな相違点は、失敗後の対応の違いにある。「言い逃れ」の文化が根付き、ミスを「偶発的な事故」「不測の事態」と捉える業界もあるが、航空業界の対応は劇的に異なる。失敗と誠実に向き合い、そこから学ぶことこそが業界の文化なのだ。彼らは、失敗を「データの山」ととらえる

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