改正大麻取締法「使用罪」創設で浮かぶ新たな問題 「医療用大麻」解禁で難病治療には新たな光も

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使用罪の創設については「薬物事犯としてスティグマ(負の烙印)が押されてしまう」といった懸念の声も上がっている。

だが小林医師は、薬物事案は“支援が必要な人たちの孤立のサイン”ということをメディアが理解して、薬物事犯の更生をひたすら促すようなトーンの報道をやめると同時に、実名報道をやめる。また、子どものときから適切な予防教育が行われたりすれば、著しいスティグマはなくなるはず、と考える。

「ダメ。ゼッタイ。」は効果なし?

今も行われている厚労省の薬物乱用防止キャンペーン「ダメ。ゼッタイ。」は効果がないそうだ。

「薬物を必要とする人は、ダメとわかっていてもやるからです。孤立しているから依存症になるので、学校などではいろんな相談の窓口があるということを、早い時期から教えてほしい」(小林医師)

前出の嶋根室長も、薬物の害を強調するのではなく、人に相談する力を養う予防教育を重視している。他者とのコミュニケーションの取り方や、断り方、情報を読み解く力などのスキルを教え、教室などで実践してもらう参加型のプログラムを提唱中だ。

現在、嗜好用大麻を合法とする国はカナダ、ウルグアイ、ドイツ(2024年から)などがあり、アメリカは州によって合法化している。

日本の大麻取り締まりの議論でも、海外の取り組みにならうべきとの意見もあるが、「海外をまねる必要はない」と小林医師。大麻の経験率は、アメリカは国民の約40%、ドイツは約25%なのに対して、日本は1.4%に過ぎないからだ(厚労省「現在の薬物乱用の状況」より。データはこちら。日本に関しては「薬物乱用・依存状況の実態把握と薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究」より。データはこちら)。

「合法化している国は使用率が高い。合法化して国が管理することで、大麻関連の金が犯罪組織に流れないようにしたほうが、大麻が広がることよりもメリットがあるなどの背景がある。けれど、検挙率が増えているとはいえ、使用者が全国民の1%という今の日本では、私はまだ使用罪で間に合うと思っています」(小林医師)

この考えでいえば、現在、若者を中心に広がる市販薬の過剰摂取の問題は、合法である市販薬の使用者は膨大な数にのぼるため、別の対策が望まれるという。20歳未満の人が大量購入することを禁じる対策も有効だ。

しかし、手に入りにくくすれば市販薬の依存症が治るわけでもない。冒頭で触れている、法をすり抜けて登場する危険ドラッグも同様だ。

大麻をはじめアルコールや薬物への依存が心理的不安や孤立から来るなら、この先も薬物がなくなることはないだろう。だからといって、取り締まりや対策をしなければ、蔓延してしまう。

「体を壊しても自己責任だと突き放す社会でいいのか、私たちはどういう社会を作っていきたいのか、考えてほしい」と小林医師は話している。

井上 志津 ライター

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いのうえ しづ / Shizu Inoue

東京都生まれ。国際基督教大卒。1992年から2020年まで毎日新聞記者。現在、夕刊フジ、週刊エコノミストなどに執筆。福祉送迎バスの添乗員も務める。WOWOWシナリオ大賞優秀賞受賞。著書に『仕事もしたい 赤ちゃんもほしい 新聞記者の出産と育児の日記』(草思社)。

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